コロナ禍に思い出す、長門裕之さんの言葉

ワクチンや特効薬がまだまだ先の話になりそうなこのコロナ禍、この長期戦、はてさてわれわれは一体どうしたらよいのかなあと思っていた時に、10年以上前の話ですが、長門裕之さんから賜った言葉を思い出しました。

脚本家の安井国穂さんからのご指名で「検察審査会」というTBSの2時間ドラマに出演させていただきました。落語家の役で「そのまんま演じてください」とのことでしたが、私以外は、町内会の老人役の長門裕之さんをはじめ、主演で主婦役の高島礼子さんや、派遣社員役の雛形あきこさん、医者役の寺田農さんら一流の役者さんたちでした。みなさん、与えられた役に完全になりきっていて、当たり前かもしれませんがそのすごさを垣間見たものでした。

撮影は一週間にも及びましたが、長時間一緒にいると仲間意識も芽生えてくるものです。高島さんはじめたくさんの差し入れなどもあり、合間の食事も充実していたせいか和気あいあいとなった楽しい現場でした(またぜひ経験させていただきたいものです)。空き時間などにはいろんな方々と結構プライベートな話もさせていただくようにもなり、たまたま長門裕之さんと控室で二人きりになりました。

ちょうど真打ち昇進の準備期間だったせいか、さほど深刻ではありませんでしたが、カミさんと何かと衝突していた頃だったので、長門さんにズバリ聞いてみたのです。

「長門さん、夫婦円満の秘訣をお教えください!」

おしどり夫婦と評判の長門さんにお知恵を拝借しようとすがるようにして質問したのですが、

「談慶君、君は、自分の奥さんを嫌な女だと思う時があるかね?」
「いつもです!」

日頃の鬱憤うっぷんを聞いてもらおうとして言い放ちました。

すると、長門さんはにっこり笑って、「そうかい、いやそれはね、君が嫌な男なんだよ」。一瞬、意味がわかりませんでした。

まるで禅問答です。

「奥さんが嫌な女の時は、君が嫌な男」

「どういうことでしょうか?」


「いいかい、奥さんを鏡だと思いなさい。奥さんがいい女の時は君がいい男なんだ。反対に嫌な女の時は、君が嫌な男なんだ」

写真=iStock.com/itakayuki
※写真はイメージです

ズシンと響きました。

なるほど、そういう見方があるのかと、さすが一流の表現者はわかりやすい言葉で一流の言い回しをするものだなあと感じたものです。

朝起きて、寝癖を直そうと鏡を見た時に、「ああ、髪の毛整えなきゃ」とまず自分の髪の毛を直そうとするのは当たり前のことです。

あの時の自分は、鏡の方に手を伸ばして、「鏡に映った自分の髪の毛」を直そうとしていたのではないかと、わが身に置き換えて反省したものです。

以後、まず自分に「カミさんは鏡に映った自分なのだ」と、チェックの目を働かせて気を配るようになりました。そのせいか、徐々に仲も良くなってゆき、いつの間にやら問題点は消えてしまっていました。

おかげさまで、近頃では自分が悪くなくても謝るように努めてきているせいか(笑)、円満そのものではあります。