少子化対策には何が必要なのか。結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究している東京大学大学院の山口慎太郎教授は「効果的な少子化対策の実施には、ジェンダー平等の視点が必要だ。いくつかの研究結果がある」という――。

※本稿は、山口慎太郎『子育て支援の経済学』(日本評論社)の一部を再編集したものです。

日本の男性の家事・育児負担割合はわずか17%

本書では、現金給付政策、育休政策、そして保育政策といった子育て支援のための政策が出生率に及ぼす影響について理論的・実証的に論じている。分析のしやすさのために、1つひとつの政策を個別に取り上げて評価することが多いが、どの政策がより費用対効果が大きいのか、異なる政策をどのようにパッケージとして組み合わせると有効なのかといった点についてはそれほど明らかになっていない。

この記事では、そうした疑問に答えるうえで有効な視点を提供してくれる研究を紹介したい。カギとなるのは、ジェンダー平等という考え方だ。国際比較を行うと、出生率と強い関係を持つ重要な変数として、ここまで着目してきた家族関係社会支出だけでなく、「男性の家事・育児参加」がある。

やや古いデータになるが、図表1は縦軸に2000年の合計特殊出生率を、横軸に男性が行った家事・育児の割合をとっている。男性の家事割合は女性側が評価したもので、2002年の「国際社会調査プログラム(International Social Survey Programme:ISSP)」から得られた数字だ。この統計によると、どの国においても、家事・育児を行うのは女性が中心のようだ。スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、デンマークといった北欧諸国とアメリカでは男性の家事・育児負担割合は相対的には高いものの、その水準は30%弱にすぎない。一方、日本の男性の家事・育児負担割合は調査対象国中の最低水準で17%ほどだ。この数字は2016年でもほぼ変わらない(総務省・社会生活基本調査)。

画像=『子育て支援の経済学』

男性が家事育児をする国ほど、出生率が高い

このグラフで重要な点は、男性の家事・育児負担割合が高い国ほど、出生率も高くなっているということだ。

もちろん、こうした正の相関関係が必ずしも因果関係を示しているわけではない。出生率が高く、家庭に子どもが多いから結果的に男性の家事・育児負担割合が増えたのかもしれない。あるいは、その国や地域に固有の家族観やジェンダー観が2つの変数に同時に影響を及ぼしているのかもしれない。

したがって、政策などで男性の家事・育児負担割合を増やすように誘導したとしても、それが出生率の引き上げにつながるかどうかは明らかではないため、解釈には注意が必要だ。図表1に示されるような相関関係自体は広く知られていたものの、それをどのように解釈すべきなのかは明らかではない。

以下ではまず、このデータが示す関係を検証するための経済理論を紹介する。そのうえで、出生率の引き上げにつながるより効果的な政策が何かを、実証分析の結果をふまえて検討する。