男たちの「ぱなし」癖の秘密

どちらが上とか下とかはない。どちらも、人類に不可欠な機能である。

男女は、同じ脳を持ちながら、とっさに「別の装置」としてカウンターバランスを取り合うペアなのである。

家族に危険が迫ったら、片方は、遠くの危険物に瞬時に照準が合って対処でき、もう片方は、目の前の大切なものから一瞬たりとも意識をそらさないで守り抜く。大切なものは、二つの機能が揃わないと守れない。

「とっさ」が違うからこそ、素晴らしい。

けれど、「とっさ」が違うので、イラっとしやすい。

とっさに、遠くの目標に潔くロックオンする男子たち。

だから、トイレに行くときは、トイレしか見えない。風呂に入るときは、風呂しか眼中にない。

目の前の汚れたコップをついでにキッチンに持っていこうとか、さっき脱ぎ捨てたシャツをついでに脱衣場に持っていこうとか、つゆほども気づかないのだ。結果、やりっぱなし、脱ぎっぱなし、置きっぱなしの「ぱなし」癖。いくら注意しても、同じことを繰り返す。

あれはやる気がないのではない。とっさに「遠く」を選択する脳の、麗しい才能なのである。このロックオン機能がついているから、男たちは狩りが上手いのだ。

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脳の「遠くを見る癖」が生む強み

ヒトが集中して注視できる範囲は、視界の中の「親指の爪ほど」の大きさと言われている。遠くの獲物を注視しているときは、当然、足元は見えないし、見ているわけにもいかない。だって、「あの獲物を狩ろう」と決めたのに、「足元のバラや苺」に気を取られていては、狩りはできないでしょう?

目標に潔くロックオンして、それを見失わない。視覚野のその癖は、思考の癖にも、話し方の癖にも反映される。

高い目的意識と客観性。その利点は、山ほどある。理系の教科は、このセンスがないと楽しめない。事業開発においても、この能力は高く評価される。つまり、できるビジネスパーソンの要件なのである。

もちろん、女性も、この使い方ができる。キャリアウーマンはもちろんのこと、デキる主婦は、この能力をめちゃくちゃ使っている。「残り物で手ばやく美味しい料理を作る」とか「絶妙の収納システムを考案し、いつでも部屋を整えておく」とか、ベテラン主婦たちが軽やかにやってみせるこれらの技は、脳の「遠く」と「近く」をすばやく交互に使わないとなしえないからだ。

実は、こういう家事タスクこそ、人工知能の最難関なのである。将棋の名人に勝つことより、凄腕主婦になるほうがずっと難しい。毎日、家に「足の踏み場がある」ことに、ほんと、もっと感謝してもらいたいものである。