従来型ワクチンとは製造過程から違う
位髙教授にお伺いした内容を元にmRNAワクチンの特徴を考えてみましょう。
上段の従来のワクチンと下段のmRNAワクチンでは製造ラインは全く異なります(図表1)。従来のワクチンは、目的となる細菌やウイルスを培養することが最初のステップになります。
例えば、インフルエンザワクチンは、鶏卵や専用の細胞内で増殖させます。回収された細菌やウイルスをワクチンに加工してバイアルと呼ばれる容器に詰めます。
ウイルスの活性を失わせれば不活化ワクチンに、もともと弱毒化したウイルスをそのまま用いれば生ワクチンになります。
従来型ワクチンにかかる手間と時間
不活化ワクチン内には、ウイルスの特徴を持ったタンパク質粒子が多量に含まれています。インフルエンザワクチンの電子顕微鏡写真では、インフルエンザウイルスを特徴づける外側のタンパク質の散在を確認できます(注7)。水溶液にウイルスタンパク粒子が均一に分散しているので、冷蔵保存となります。冷凍してはいけません。
ワクチン成分を体内の免疫細胞が認識すれば良いので、皮下注射や筋肉注射することになります。インフルエンザ不活化ワクチンでは主にB細胞由来の抗体を作ります。本物のウイルスが体内に入ってきた時に、素早く免疫システムが発動します。
生きたウイルスを純粋培養してワクチンを作るのには、幾つもハードルがあります。ウイルスは、生きた細胞内で増殖します。ウイルスによって増殖できる細胞の種類が限られています。ウイルスが増えてくると宿主の細胞を痛めてしまい必要な収穫量を得ることができないこともあります。
また、鶏卵で培養を繰り返しているうちに元のウイルスとは異なる卵で増えやすいウイルスに変化してしまう「卵馴化」が問題になることもあります(注8)。気がついたらオリジナルのウイルスが無くなって増えやすいタイプに変化したインフルエンザウイルスばかりになってしまっていた、というものです。海外ではインフルエンザウイルスを培養細胞で増殖させてワクチンを作っています。
このように従来型のワクチンでは、まずウイルスそのものが必須です。次にウイルスを増やすための細胞を培養する準備、そして細胞内でウイルスを増やす手間と時間が必要となります。卵や細胞培養容器といった生体を扱う空間も必要になります。
mRNAワクチンは従来型と根本から違う
一方、mRNAワクチン作成では、ウイルスの遺伝子解析から始まります。ウイルスの遺伝子の中でヒトに免疫を誘導する部分の遺伝子配列を探します。それをもとにワクチン用の遺伝子を設計します。
設計図をもとにして同じmRNAを大量生産します。細胞内に運んでくれる担体と合わせることでワクチンとなります。mRNAワクチンには、ウイルス由来のものは含まれません。