トップダウンの会社だった

入社後4カ月、土屋氏にはワークマンがトップダウンの会社だということが見えはじめていた。と同時に、同社の成長の限界もはっきりと感じられたのである。現状の経営戦略のままだと2025年に1000店舗、売上高1000億円に達し、そこで頭打ちになってしまう。だからこそ、いま手を打たなければジリ貧になってしまう。

ワークマン土屋専務(撮影=プレジデントオンライン編集部)

土屋氏が採用したのが、全社的「データ経営」と、これまで以上に「しない経営」を推進することだ。前者はデータを活用することで経営陣と社員が平等に議論できるボトムアップの雰囲気づくり。後者は第2のブルーオーシャンを発見し、客層を拡大していくためにワークマンらしさにより一層磨きをかけていくことにほかならない。

「現在はコロナ禍にしても、度重なる自然災害による損失発生にしても、これまでの経験則が役立ちません。AI(人工知能)もある時代に、あえてエクセルにこだわったのは社員一人ひとりにじっくり考えて、結論を出す大切さを知ってほしかったから。研修でデータリテラシーを高め、現場にある情報を正しく分析・判断して上司に伝えてくれということです」

改革への反発を解消した秘策

もちろん、慣れないパソコンに向き合うことについては、それまで経験と人脈で業績を積み上げてきたベテラン社員からの反発もなかったわけではない。だが、14年の「中期業態変革ビジョン」策定時にデータ分析の能力を人事制度に反映させ、一定の活用能力を部長への昇格要件にした。もっと驚くのは、会社がスキルアップを要求する見返りに、5年間で100万円のベースアップを約束したことだ。

「売上増を前面に掲げる会社はあっても、賃上げをコミットする経営者はまずいません。これは結構インパクトがありました。しかし、これから社内の改革をやり抜こうとするからには絶対に必要なことだったと確信しています。実際、その後のマネジャー以上の退職者はゼロ。皆さんが理解してくれたからでしょう」