国会議員でさえも無警告で銃撃される

瓦礫の山と燃え尽きた自家用車、家屋の壁に残る無数の弾痕、布に包まれた遺体を荷台で運ぶ市民、遺体の側で死んでいる猫。

人々の足音だけが響き、緊張と悲しみが伝わる。一行が再びヌサイビン大通りに差し掛かった時のことだ。100メートルほど離れた所に軍用車両が停められ、武装した数人の男たちがいた。

警察官なのか軍兵士なのかは分からない。レフィックはその状況を撮ってから、中央分離帯の隙間を通り1列になって道を渡る人々にカメラを向けた。銃声が響き渡った。

「落ち着いて。大丈夫だ」

誰かが言った。

ヌサイビン大通りから市役所に向かう地区は、軍が重点的に攻撃している地区ではなかったから、レフィックも「威嚇射撃だろう」と思った。

次の瞬間、激しい銃撃が始まった。不意を突かれ、みんなが逃げ惑った。列の先頭にいて道路を渡り終えていたファイサルやサーデット記者は脇道に逃げ込んだ。カメラを回したままレフィックも走った。

踏み出した右足に何かが当たったと感じた直後、全身を痛みが貫き地面に倒れた。激痛に耐えながら、近くの商店の軒下まで這って行った。誰も乗っていない車椅子が、レフィックの視界をゆっくりと横切った。

地面に倒れた男性から流れ出た鮮血が水のように地面を這って行く。静かに流れるアザーン(礼拝の呼び掛け)を突き破るように、銃声が響き渡る。

ジズレでは、市民はしょっちゅう、こんな目に遭っているのだ。

だけど誰もそれを目撃していない。今、世界はこの事実を目撃するべきだ。

テロリスト扱いされ射殺される市民たち

政府はおそらく、今回もテロリストを銃撃したと発表するだろう。

そんなことはさせない。

1分ほど、レフィックは仰向けのまま、体が痛みに慣れるのを待った。それから左手を腰の辺りにあるビデオカメラにそっと伸ばした。生きていると兵士に気づかれれば、銃撃されるかもしれなかった。

片手で操作しようとしたが、被弾した右脛の激しい痛みでカメラを支えられず、右手を添えてゆっくりと周囲を撮影した。映像は当局者の手に渡ってしまうかもしれない。そうなれば、映像は永久に闇に葬られてしまう。

その恐れはあったが、カメラを回し続けスチールカメラのシャッターも切った。向こうの方から、救急車が近づいて来るのが見えた。銃声がまた響く。

「レフィック! レフィック!」

ファイサルが叫びながら駆け寄って来た。

「僕は大丈夫。他の人の方がひどい」

ファイサルに起こされるレフィックを地元記者が携帯電話で撮影した。

「大丈夫?」と泣き叫ぶサーデット記者に、レフィックはスチールカメラとビデオカメラの両方を託した。

ファイサルが電話で要請し到着した救急車に、レフィックは抱き抱えられて乗った。人々の悲鳴とレフィックのうめき声も記録しているこの映像は、今もインターネット上で公開されている。

この銃撃で2人が死亡、10人が負傷した。