4月21日から全科目で遠隔授業を開始したスピード感
われわれの大学も教職員100人程度の“中小企業”で、そのうえできてから20年も経っていないため、風通しがよく、意思決定が速い。
大学の閉鎖が決まり、授業をリモートで行うと決まったのは3月下旬だったが、そこからの動きが速かった。ただちに準備に着手し、4月21日からすべての科目で遠隔授業を開始している。全国的にみても、かなり素早いスタートだったと思う。
そのころ東京や関西の総合大学などは、まだ方針を決めかね、準備も整っていなかったようだ。
5月の連休明けにスタートできた大学はいいほうで、6月にずれ込むところも少なくなかった。教員が多ければ、さまざまな意見が出てくるため、意思統一が難しい。それに学部がいくつもあれば、学部間の足並みを合わせるのにも時間がかかる。大きな組織ほど、危機に際して迅速に行動するのは難しくなる。
理系大学ほどリモートへの対応が速い
一般に、理系の教員は普段からパソコンを使って仕事をしているし、とくに地方大学の教員は、コロナ以前からリモート会議に慣れていた。
国内外の研究者たちと共同研究を行うことが当たり前になっていて、ときどきミーティングを開く必要があるが、地方大学から首都圏などに足を運ぶのは、時間的にも費用的にも大きな負担になる。そのため以前からZoomやSkypeなどのツールを使うのが当たり前になっていた。
遠隔授業への抵抗感は、最初からほとんどなかったのである。
しかし大きな大学では、そう簡単にはいかなかっただろう。遠隔授業に否定的な教員も少なからずいたであろうし、とくにITを使い慣れていない文系の教員が大勢いるような大学では、遠隔授業のための体制作りから始める必要があったはずである。結果的に対応が大幅に遅れてしまったのである。
教員の大半が生物学や医科学の専門家
これは本学ならではの特殊事情だが、理系といってもバイオサイエンスのみを専門に教える大学であるため、全教員が生物学や医学の研究者で占められている。
4月、5月ごろは、マスコミが新型コロナの恐怖を連日連夜にわたって煽り続けていた時期である。そのため日本全体がパニック気味になっていた。
しかし本学の教員は、自分で専門雑誌の論文を探して読むことができるし、国内外の医師や専門家たちと情報を交換することもできる。ウイルス感染やウイルス進化の専門家もいて、新型コロナのゲノム情報を解析した研究論文を早々に発表した教員もいたほどだ。テレビのワイドショーなどで流れる不正確な情報に惑わされることなく、全員が冷静に判断し、行動することができたのである。
もちろん、バイオ系や医療系の学部・学科を持つ総合大学はいくつもあるが、学部間の力関係によって、正当な意見を取り上げてもらえないなど、難しい問題があったようだ。