すばやい決断は従業員を守る

感情の面で一番苦しかったのは、従業員に倒産を伝えることでした。倒産=従業員の解雇です。経営者として従業員たちの雇用を守れなかったことは、いくらコロナだろうが、経営者である私の責任です。また、飲食店として業績回復の見込みを立てることができないと判断したのも、私の経営者としての能力です。そこに一切の言い訳はありません。

2015年に創業してから5年間、走り続けてきました。もちろん、私の店でくつろぐお客様の顔も忘れられません。

しかし、早期の決断をすれば、従業員に最低限の手当てを出すことができるし、1日でも早く、新しい職場を探すこともできます。当時の私にできる最善の策は、考えても考えても、早めに会社を畳むという結論に行き着きました。

従業員には、社内のチャットを使って、自ら「会社を畳む」ことを伝えました。言い訳はしませんでした。その代わり、なぜその結論に至ったのかは、会社の財務状況など、ちゃんと数字で示しながら、私の考えを伝えました。

文章を書き終え、何度も読み返しました。こうした方が伝わるかな、ここはこの言葉の方がいいかなと読み返しては修正し、「よし、できた」と思っても、なかなか送信ボタンが押せませんでした。これを送ってしまえば、もう後戻りはできません。

「本当にこれでいいのか」

何度も自問自答しましたが、最終的には、私に今できる最善策はこれしかないと信じ、送信ボタンを押しました。

会社を潰したら借金はどうなるのか

ここまで、「倒産」を選択した根拠や当時の心境を書きましたが、当然皆さんが気になるのは、借入金の行方だと思います。私もそれは心配でした。

私は2019年4月に5店舗目をオープンするための融資を受けました。さらに2019年12月に店舗をリニューアルするためにも投資をしており、借入残高は合計で約9000万円ありました。この9000万円には代表者保証をつけているため、このまま倒産すれば代表である私に丸々9000万円の借金が回ってきます。

パッと思いつくのは「自己破産」です。自己破産すれば債務免除となります。しかし私は事業で借りたお金は自力で返すつもりでした。なので、何か他に方法はないものか、弁護士に相談に行ったのです。

一般に、倒産と言われている法的手続きは、「破産」「会社更生」「民事再生」「清算」「特別清算」が主ですが、破産や清算は、会社組織と債権債務関係者(いわゆる借金)をリセット(債務の全部もしくは一部を返済)して、経営者が新たな事業活動を始めることを促すものです。

会社更生や民事再生は、企業の事業存続を前提に、裁判所の監督の下、借金を整理しようというものです。倒産の可能性がある経営者さんは、こういったことを近くの弁護士によく相談してみてください。

悩んだ末、特別清算を選択。弁護士とよく相談して決める必要がある。(『全店舗閉店して会社を清算することにしました。』より引用)