薬の効能書には大量の細かい記述が並ぶ

ときどき戸惑うことの中に、薬剤についての医師と薬剤師の意見が微妙に食い違うことがある。

薬剤に関する情報はかつてとは比べものにならないほど増えており、専門に処方する医師でさえ十分把握できているとは言い難い。

そうした中で薬剤師の指摘が医師のうっかりミスを防いでくれることもしばしばである一方、時折、医師と薬剤師との間で情報の重みづけが異なり、二者の説明が調和しないことで患者に無用な不安を与えることがある。

薬剤を説明する効能書には、大量の細かい記述が並び、読み取るのに骨が折れる。

特にリスクについては念入りに書かれているものの、重大なリスクと滅多にないリスクとの区別はあやふやである。

医師と薬剤師とはそもそも経験の質が異なり、拾い出す情報も同じとはならず、リスクについての重みづけに乖離かいりが生じやすい。

あふれる情報に踊らされ破局を招く現代人

あまり知られていないことのようだが、脳は情報を集めるシステムではなく、感覚器を通じて押し寄せる無限の情報のほとんどを削除し、必要な情報を拾い出す高度なシステムである。

遠山高史『シン・サラリーマンの心療内科 心が折れた人はどう立ち直るか「コロナうつ」と闘う精神科医の現場報告』(プレジデント社)

脳は、骨の折れる生身の体験に基づいて重みづけをし、有用な情報を拾い出す。情報を無差別に蓄積するシステムとは比較にならないエネルギーが要るのだ。

薬剤の効能書が、いかに細かに隙がなく網羅されていたとしても、それは氷山の一角のような情報に過ぎない。

それらの下に隠れて見えない部分を予測するには、多くのリアルな臨床体験が不可欠となる。

現代人は、どれを削除すべきかの区別さえ定かでないまま、溢れる情報の整理に追われ、たまたま目に付いた情報に踊らされ、人生を生き抜く糧となるリアルな体験を重ねる余裕を奪われているように見える。

それは水面下の巨大な氷をかえって見えづらくさせ、タイタニックのような破局を招くかもしれない。

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