これから日本のものづくり企業はどうなっていくのか。東京大学大学院の藤本隆宏教授は「『モノからコトヘ』と言われるが、『もうモノは作らない。サービスに特化する』という経営戦略を口にする会社は危ない。モノを捨ててコトに走るというのは、言葉遊びとしては心地よいが、不毛な二者択一にすぎない」という——。(第3回/全3回)
撮影=プレジデントオンライン編集部
東京大学大学院の藤本隆宏教授。

国内拠点に期待される「戦うマザー工場」としての役割

——トヨタの工場では春以降、減産が続いていた時期に工場を挙げて作業者の多能工化、設備製作の内製化など体質強化活動に取り組んだようです。日頃からカイゼン活動しているトヨタだと思いますが、さらに磨きをかけた形です。ウィズコロナ、アフターコロナをにらんで日本のものづくり産業がしなければいけないカイゼン活動とは何でしょうか。

【藤本】今回の新型コロナウイルス感染拡大のように世界のどこの工場が止まるのかわからない「グローバル災害」の場合、各社のグローバル・サプライチェーンの中で、日本の国内工場が最後まで動いている、あるいは災害終息後に最初に立ち上げるのは日本の工場である可能性は小さくありません。加えて、海外拠点にもそうした組織能力を構築する必要があり、国内拠点は自らが存続しつつ、それを知識移転する「戦うマザー工場」としての役割がますます期待されます。

その点、トヨタ自動車は、例えばかつて大きな経済危機に直面したタイやトルコの生産子会社でも、安定雇用をできるだけ維持した上で、余剰労働力を教育、訓練、改善などに回し、現場力を高めることによって、危機後の競争力向上につなげた実績が豊富です。グローバル災害の時代に、競争力と危機対応力の同時構築は、日本だけではなく海外拠点でも必須です。

日本の優良な工場群の存在感は、コロナ後にむしろ増す

【藤本】日本の国内工場は相対的に高賃金という弱点は依然としてありますが、それを高い生産性、製造品質、即応力などで補った上で、「見える災害」に対する早期復旧と代替生産によるサプライチェーン維持能力と、コロナ禍のような「見えない災害」に対する感染防御力を維持し、かつ海外拠点に伝えることで、国内のものづくり現場は、日本企業のグローバル・サプライチェーンを牽引していくだけの力を持ち続けていると思います。

アフターコロナにおける貿易財製造企業のグローバル・サプライチェーンを再構築する際に、日本の優良な工場群の重要性と存在感は、むしろ増すのではないでしょうか。

——とすればアフターコロナをにらんでも、日本企業のサプライチェーンの見直しは必要ないということですか。

【藤本】必ずしも、恒久的あるいは不可逆的な変更だとは限りません。アフターコロナを考えると、短期的な危機対応の判断によってグローバル・サプライチェーンを変更し、国内完結型に変えるという戦略は、それが国際競争力を損なうのであれば正しくない、ということはすでにご説明しました。

グローバル競争は毎日来るのですから、グルーバル型であれ、ローカル完結型であれ、あくまでも自社の当該製品にとって「競争力ベスト」のサプライチェーンを維持し、その長期的な全体最適を目指すべきだと思います。