韓国では、20代男性10人のうち6人が「反フェミニズム的」という調査結果がある。韓国の若者に取材をしてきたライターの安宿緑さんは「若い男性を中心に女性嫌悪が拡大している。特に20代の男性たちは『女性のほうが自分たちよりも優遇されている』と感じている」という――。

※本稿は、安宿緑『韓国の若者』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。

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2016年、ソウルで起きた「女性嫌悪による殺人」

82年生まれ、キム・ジヨン』の大ヒットなどに象徴的だが、韓国では、ここ数年、長い間抑圧されてきた女性の権利回復を求める動きが強かった。

しかしその一方では、「女性家族部の存在自体が男性嫌悪である」と批判したり、非婚を含むフェミニズムの過激化に警鐘を鳴らす向きもある。

著書『そのフェミニズムは間違っています』(未邦訳)が、韓国国内で脚光を浴びた作家のオ・セラピは「性差別は明らかに存在するが、現在の韓国のフェミニズムは男性排斥、ラディカリズムに偏り、男女の分断を招いている」と指摘している。

実際に韓国国内では男女間で分断が進んでおり、特に若い男性を中心に女性嫌悪が拡大している。

典型的な「フェミサイド(女性嫌悪に基づく男性による女性の殺人)」と言われているのが、2016年にソウルの江南駅近くで起きた女性刺殺事件だ。

犯人の34歳の男は「普段から女性に無視されていたことを恨んでいた」と供述。事件後には、現場付近に設けられた追悼スペースに「イルべ」(韓国の巨大掲示板サイト)ユーザーが被害者を貶める文言を貼り付けるなど、韓国国内に広がっていた女性嫌悪が可視化されるきっかけとなった。

性的被害を受けた女性が「逆告訴」されるケースが増えている

今、韓国では女性が性的被害を訴えた場合、それを受けて、男性側が名誉毀損、損害賠償請求といった逆告訴をすることが増えている。その結果、女性側が「誣告罪ぶこくざい(虚偽申告罪のこと)」に問われるケースまで起きている。

最近だと、2017年に国会立法調査官のホ・ミンスク氏がまとめた「チャ・ジニョン事件」が韓国国内で話題になった。これは、レイプ被害者であるチャ・ジニョンさん(仮名)が検察から誣告罪で起訴され、2年8カ月にわたる法廷闘争の末、ようやく無罪を勝ち取った事件だ。

加害者の男はチャ氏の知人で、性的暴行による怪我の治療費を出すことを第三者の仲介で合意。しかし男は請求された額が高すぎるとして支払いを拒否。揉めた結果、チャ氏は警察に被害届を出すに至った。

しかし、検察官はチャ氏の堂々とした態度に「あなたのような被害者はいない」と言い放ち、被害後、すぐに告訴しなかった点などを挙げ、誣告罪でチャ氏を逆に起訴した。そして法廷では、加害者の関係者がグルになって虚偽の証言をしたり、会ったこともない人間が証言台に立ったりしてチャ氏を追い詰めたとされる。

被害者のチャ氏が、逆に罪に問われかけた理由について、ホ氏がさまざまな角度から分析した結果、その最大の要因は「被害者らしくない態度」にあったと記している。「女性らしくない女性が善良であるはずがなく、そのような女性であれば性犯罪被害を受けても当然であるという偏見」「堂々と自己主張をする女性に対する不快感と敵愾てきがい心」が作用したというのだ。