5年育てた店を乗っ取られ、町を追われ
(サム・ウォルトン著、渥美俊一、桜井多恵子監訳『私のウォルマート商法』講談社+α文庫)
「世界一のお金持ち」といえばかつてはビル・ゲイツで、今はジェフ・ベゾスの名前が挙がりますが、「世界一のお金持ち一家」といえば、世界最大の小売業ウォルマートを創業したサム・ウォルトンの一族となるようです。
1918年に生まれたウォルトンが小売業の世界に入ったのは兵役を終えた1945年のことでした。義理の父親から借りた2万ドルと、妻と2人でためた5000ドルでアーカンソー州ニューポートのバラエティ・ストア、ベン・フランクリンを買い取り、生来の勤勉さと社交性を生かして店を繁盛させています。
最初はごく小さな店でしたが、5年後には年商25万ドル、純利益3万~4万ドルの店にしただけでなく、近隣6州のベン・フランクリンの中でトップ、バラエティ・ストアとしてはアーカンソー州1位の規模に成長させたのです。
ところが、その成功を横取りしようとしたのが店の地主です。ウォルトンが結んだ店の借地契約には契約更新の権利が含まれておらず、地主は契約更新を拒否したのです。狙いは繁盛する店を自分たちのものにすることでした。
5年間の苦労が水の泡となったウォルトンは「まさか自分がこんな目に遭うとは」と不運を嘆きますが、黙って町を出ていくほかはありませんでした。
人口3000人の田舎町から再起に成功
しかし、いつまでもくよくよしているわけにはいきません。ウォルトンはアーカンソー州ベントンビルという人口3000人の田舎町に移り、再起をかけることになります。
失意のどん底を味わった起業家は、再起のためには倍のエネルギーを注ぐといわれますが、ウォルトンは最新のシステムであるセルフサービス方式を導入した新しい店をオープンし、これまで以上の成功を収めます。
ウォルトンは「ぜいたくにとらわれると、最も大事なこと、つまりお客さまに仕えることに集中できなくなる」といい続けることでウォルマートを成功に導き、亡くなった92年には売り上げ500億ドルを超える規模へと成長させたのです。