メーカーの代わりに卸が営業をする仕組み


重本光久●P&Gジャパン ディビジョン2営業本部長 1950年生まれ。関西大学卒。78年ウエラ入社。2004年、統合によりP&Gへ。CBDディレクターカスタマーチームリーダーなどを経て現職。

一方、最も大切な部分だが、P&Gジャパンの一連の流通改革は、卸、小売りの流通各社にどう影響しているのだろう。

大手卸のあらた(本社・船橋市)は、P&GジャパンのGSPを取り入れている。嶋脇明副社長は、「実験段階からやっているので、5年になります」と言う。

重本光久P&Gジャパン ディビジョン2営業本部長(ディビジョン2は主に卸を担当)は「GSPは、06年7月から正式にスタート。小売りを支援するための卸と当社との戦略的な協働であり、ショッパー(買い物客)視点の取り組み」と話す。メーカーのP&Gジャパンが直接支援するよりも、卸の営業力を活用して顧客満足を上げられる小売店を「ゴールデンストア」と位置づける。訪問は卸業者が主に行い、P&Gジャパンは情報提供などを行う。「情報提供は6カ月プランという形で、卸を通して小売店に流れます。最初、一部の小売りから、メーカーはもうウチには足を運ばないのかなどと言われましたが、最近は落ち着いてきた。とりわけ、メーカー、卸、小売りでの在庫の重複をなくしていくのが目的」(重本)。三者協働の性格だ。


あらたの嶋脇明副社長。「卸も合従連衡が続き、物流だけでなく付加価値を持たないと生き残れない時代になっています」

嶋脇は「GSPは超大手小売りの1つ下のランクが対象。ドラッグストアやスーパー、ホームセンターなど、当社取引先のなかには約100店舗あり、地域の有力店をカバーしてます。実売りの部分ではまだ苦労してますが、三者の在庫重複はなくなり、無駄が省けます。三者協働の考え方のベースには、アメリカでのウォルマートとの関係性がノウハウとしてあるのでしょう」と語る。

少子高齢化が進むなか、卸も小売りも合従連衡が進み、「物流機能だけの卸、メーカーの販促費をアテにした値段だけで取引する卸では生き残れない」と嶋脇は言う。品揃え機能、物流機能のほか、マーケティング機能が必要になっていくが、「特にメーカー代理店として、自立した意志をもった営業マン育成が求められます」(嶋脇)。こうしたなか、「P&Gは協働を他メーカーに先行して始めていて、オープンで公平な点がいい。また、当社の営業マンへの研修もあり、深掘りできる営業が育ってます。当社でも、流通会社をもつ花王は巨大なライバルであり、人を育成して対抗したい」(同)。


ケイポートドラッグマート近藤祐輔商品・販促部長。

ではGSPによって、店頭はどう変わったか。東京の城南地区を中心に店舗を展開するドラッグストア、ケイポートドラッグマート(本社・東京都品川区)の商品・販促部部長、近藤祐輔は話す。「半期分のP&GのCMなどの情報を事前に見られるのは、小売りにとって大きいのですよ。仕入れはもちろん、チラシなど広告も計画的に打てますからね。売り上げは上がってます」。

同社を担当する、あらた神奈川支店販売部の塚本匡史は「1月から6月、7月から12月と情報をもらうのですが、最近ではヴィダルサスーンの安室奈美恵さんのDVDを液晶画面で流す提案をしましたが、お店では好評です。近藤部長だけではなく、時にはP&Gの担当も入って知恵を出し合うこともあるのです」。P&Gジャパンがそれまではサポートできておらず、CM戦略の情報すら流れていなかったような会社でも、GSPによりサポートが可能となった。