【稲川】ロケット開発は、象徴というか、わかりやすさが大事ですからね。

急速に宇宙開発への興味を失います

【堀江】そうそう。それで1969年に、アポロ11号で月に初めて人間が行って、アメリカが勝った。ただ、アメリカ国民はその後、急速に宇宙開発への興味を失います。それで困るのは雇用。アポロ計画は正義の公共事業で、開発拠点のテキサス州ヒューストンとか、打ち上げ基地のあるフロリダ州で、関連も含めて20万~30万人くらいの雇用があった。計画が終わって、これがなくなると大変なことになる。

【稲川】実際、アポロは17号で終わっていますね。20号まで計画されていたけど、キャンセルされた。

【堀江】そこで、テキサス州やフロリダ州の議員たちが雇用を守るためにひねり出した案が、スペースシャトルだった。もちろん新しい計画は、国民の支持がなければ始められない。だから、翼をつけて飛行機型にした。アポロみたいな古臭い宇宙船じゃなくて、今度は飛行機型で、離陸・着陸ができます、かっこいいでしょ、というわけです。でも、飛行機型では、なかなか宇宙に行けない。おそらく今の技術だって難しいですよ。

【三戸】どうしてですか?

【堀江】ロケットは重くて、ロケットが1段しかない単段式では打ち上げが非常に難しいんです。ツィオルコフスキーの公式で計算すると、ロケットを2段式とか3段式の複数段にして、途中で燃料タンクを捨てて軽くしないと宇宙まで行けない。スペースシャトルはかっこつけて飛行機型の単段式にしたから当然、無理です。

それでどうしたかというと、大きな外部燃料タンクを追加(増槽)したわけです。ただ、増槽するとまた重くなるから、もともとのメインエンジンだけでは打ち上がらない。だから、ロケットブースター(補助推進装置)をさらに2本つけた。

【三戸】スペースシャトルの打ち上げの映像を見てみると、ゴチャゴチャついていますよね。

【稲川】荷物と人間を一緒に飛ばす設計もよくありませんでしたね。ただでさえ人間を飛ばすときの安全基準は、非常に厳しい。ところが、スペースシャトルは荷物と人間が一緒になっていて、十分な脱出装置もついていない。全部の安全基準を人間に寄せなくてはいけないから、とにかくお金がかかる。

【堀江】再利用型だから安く済みますというのも間違い。飛ばせば毎回エンジンのオーバーホール(分解、部品交換、洗浄)が必要だし、再利用のために全部耐熱タイルで覆いましたが、割れやすいから点検も必要になる。でも、コロンビア号は耐熱タイルが剥がれていたことが原因で空中分解して、乗員7人が亡くなりましたね。政治的な妥協の産物であることが、すべて悪く影響しちゃった。話が長くなったけど、これがスペースシャトルの失敗です。