決断を支えた稲盛和夫さんの言葉

経営者の正念場である。どう舵を取るか。手塚社長は雇用を守り、ジムへの設備投資を決めた。心のよりどころになったのが、経営の神様の言葉だった。手塚社長は稲盛和夫氏を師と仰ぐ盛和塾の塾生で、稲盛賞を受賞したこともある。

「判断を誤れば会社の存続に関わりますから、決断するというのは恐ろしいものです。しかもコロナ禍は何が正しいのか、いつまで続くのかもわからない。解決するすべが見えない。そんなとき、稲盛塾長が何とおっしゃっていたか、を考えました。稲盛語録に『人は往々にして損得を基準に判断して誤る。人間として正しいか正しくないか、よいか悪いかを基準にしなさい』という言葉があるのですが、それに従いました。信頼できる人の言葉があるというのは心強いです」

現在、筋トレがメインの男性客は比較的戻ってきたが、スタジオワークがメインの女性客はまだ慎重な状態。業績的にまだ難しい段階。楽観はできないという。

撮影=遠藤成
ランニングマシンには飛沫防止のアクリル板を設置。

コロナ=屋形船のイメージが拭えない

都内で最初に感染者が確認されたのは2月13日、屋形船での新年会に参加していたタクシー運転手だった。テレビは連日、屋形船で感染者がと報じた。

後日、明らかになるのだが、都の発表は「中国人客→屋形船の従業員→タクシー運転手」という感染ルートを示唆するものだった。しかし、都職員の「屋形船がきっかけで感染が拡大した」という発言で、屋形船=コロナのイメージが定着。小池百合子都知事は「屋形船が発生源でない」と3月の都議会で否定したが、いまだに屋形船は危ないという誤解は解けていない。

都の屋形船業者は約70社で3つの組合からなる。6割強が所属する屋形船東京都協同組合の「小松屋」4代目社長、佐藤勉理事長と「三浦屋」7代目社長、新倉健司理事に話を聞いた。

「感染者の出た船宿さんとは組合が違うので、知ったのはテレビのニュースです。ニュースが流れると、年末まで入っていた予約がすべてキャンセルになり、以来ずっと休業状態です」(佐藤氏)

東京2020大会開催決定以降、東京都は観光産業の振興を推進してきた。五輪の主たる会場が臨海部ということもあり、歴史のある屋形船も文化的観光資源の一つとして期待された。業界をあげて都の方針に沿うように協力してきたが、コロナ騒ぎでの都の対応には、恩を仇で返された感もある。

撮影=遠藤成
7月24日、幻の東京2020大会開会式の日、お台場に50隻の屋形船が集結。医療従事者への感謝を示す提灯を点灯した。

「うちは去年、1万6000人ほど乗船客がありましたが、今年は2月半ば以降ゼロ。五輪需要を見込んで新造船を造った業者もいます。他の業種よりも1カ月早く打撃を受けましたから、みんな悲鳴をあげています」(新倉氏)