創業者の急逝が、経営権争いの始まり

コロワイド側が新任取締役候補に智仁氏ら創業一族を加えたことが失敗だったという見方もある。実際、智仁氏への賛成票は13.96%と候補者の中で最も低かった。コロワイドに株式を売却する前には、親戚でもある窪田社長と激しく対立、「お家騒動」と騒がれていた。株式を手放したにもかかわらず、まだ経営に未練があるのか、と感じた株主が多かったということだろう。

大戸屋の経営権争いは、2015年に創業者の三森久実氏が57歳で急逝したことに端を発する。肺がんであることが分かると、長男の智仁氏を常務に据えたが、相続対策らしいことは何もできていなかった。社長は久実氏の従兄弟の窪田氏が務めていたが、当時も4万3000株しか株式を保有していなかった。結局、久実氏が保有していた約19%の株式は、妻の三枝子氏と智仁氏が相続。それぞれ13.15%を持つ筆頭株主、5.63%を握る2位株主となった。

もっとも相続した場合、巨額の相続税を支払う必要がある。会社から久実氏への「慰労金」を支払うことで相続税に充てることが考えられたが、窪田社長の抵抗に遭った。結局、経営権を諦め、コロワイドに株式を売却して現金資産を手に入れることを選んだわけだ。久実氏の死去から4年経った2019年のことだ。

「私たちの会社」という意識が抜けない創業家

予想外の早逝だったであろう久実氏が、自分が創業した会社を誰に継がせようと考えていたのかは今となっては分からない。創業者にとって会社は死ぬまで「自分のもの」で、死後のことはあまり考えていないものだ。むしろ家族が会社を「自分たちのもの」として守ろう、とする傾向が強い。特に創業者の妻は、息子が事業を継ぐのが「当たり前」と考える傾向が圧倒的に強い。創業家で騒動が起きるのはほとんどがこのパターンだ。

今回も、妻の三枝子氏が長男に継がせることにこだわり、窪田社長との間に骨肉の争いを生じたと報じられている。株式を上場した後は、創業家はあくまで一株主だと言われても、「私たちの会社」という意識が抜けないのである。

上場企業となっても、創業家が大株主として経営に関与する例が多い欧州と違い、日本の場合、少数株主となった創業一族の権限は弱い。日本企業は伝統的に社長に権限が集中しているので、社長の座を握れるかどうかが最大の焦点になる。