多くの人が発達障害的な特性を持っている

周囲の無理解の背後には、精神疾患全般に対するタブー視もありそうです。ある女性は、夫に発達障害を打ち明けたとき、「気持ちわりい」と言われたそうです。精神疾患を何か「汚らわしいもの」とさえ感じ、全否定してかかる人は確かに存在しています。それは、「発達障害はまれなもの、自分とは無縁のもの」という大きな誤解のせいかもしれません。

岩波明『医者も親も気づかない 女子の発達障害』(青春出版社)

事実は正反対です。むしろ、発達障害はまったく珍しくない疾患であり、また誰しも発達障害になる遺伝子を持っているとさえ言えます。

前述したように、ADHDの特性を持っている人は、人口の5%ほどだと言われていますし、日本だけでも少なくとも500万人以上いると推定されます。さらに、ADHDという診断に至らないだけで、ADHD的な特性によって日常生活に支障をきたしている「境界域(いわゆるグレーゾーン)」の人を含めれば、もっと多いはずです。濃淡はあっても、かなり多くの人が発達障害的な特性を持っているのです。

両親が健常でも、ADHDやASDの子が生まれてくることも見られます。このように発達障害は、レアな存在ではありません。むしろ、ありふれたものです。全否定する姿勢は完全な誤りです。

知的障害のない人がほとんど

かつては「発達障害=知的に障害がある」という認識がありました。実際、知的障害を伴うケースも見られます。特にASDの重症例である自閉症は、知的障害を伴う率が高く、長期の療育を必要とし、彼らのための施設もあります。

しかし、最近問題になっている発達障害は、知的障害のない人がほとんどです。私の経験でも、発達障害の専門外来にやってくる人の95%は知的に正常か、それ以上の知能の持ち主で、学歴もほとんどが大卒です。有名大学を卒業している人も数多くいますし、医師や弁護士などの専門職についている人も珍しくありません。

また、ADHDの「不注意」の特性によって学校の勉強に集中できず、成績が悪い人であっても、実はIQ(知能指数)を検査すると標準以上だったりします。

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