わかりやすい話のメカニズム
たとえばカーナビが発する「100メートル先の交差点を、右折です」というフレーズ。100メートルという正確な数字。交差点という具体的な情報。右折という方向づけ。余計な情報は一切ありません。
よく考えれば当然のことです。もしカーナビが発する情報がわかりにくかったらどうなるか。事故を誘発する可能性があります。「犯罪的カーナビ」と言われても仕方ありません。
車の運転をしていると想像してみてください。
カーナビが「100メートル先の交差点を、右折です」と伝えます。あなたは、その認識で運転を続けます。すると実際に交差点が見えます。右折という指示があるので、あなたは何の迷いもなく交差点の右折レーンに車を進めるでしょう。
つまり、こう言えるのです。
事前に進行方向を教えてくれるから、スムーズにその方向に進める。
これは車の運転だけに当てはまることではありません。
実は日常の会話においても、数学コトバが聞き手に進行方向を教えてくれるのです。
あなたが「なぜなら」と言えば、聞き手は次にあなたが述べる内容が【理由】であることを瞬時に理解するでしょう。すなわち、その話の進行方向が【理由】になることを事前に知るのです。そしてそのとおり【理由】が述べられる。だからその話がスッと入ってくる。
これが私の考える、わかりやすい話のメカニズムです。
伝える側:「この先、右折です」
↓
伝えられる側:「ああ、この先で右折するのか」
↓
伝える側:実際に交差点に差しかかり「右折です」
↓
伝えられる側:理解
【いい伝え方】
伝える側:「なぜなら」
↓
伝えられる側:「ああ、このあとに理由を述べるのか」
↓
伝える側:実際に理由を述べる
↓
伝えられる側:理解
私が本書の中で頻繁に使っている「たとえば」という数学コトバも同じです。このコトバが出てきた瞬間に、あなたは次の進行方向が【事例】であることを知り、そして、そのとおり【事例】が登場します。
たったひとつの数学コトバをはさむだけで、文章をスムーズに読み進めることができるのです。