ロックダウンしてもしなくても「死者数は変わらぬ」

世界各国でロックダウンが有効とされ、実行された根拠については、3月半ばに発表された英インペリアル・カレッジ・ロンドンの専門家チームの論文が知られている。「何もしなければ、8月までに約51万人が死亡する」という主旨で、英国政府も途中から指針としたほか、日本の新型コロナウイルス対策専門家会議が「他人との接触を8割削減する」という目標を打ち出す際の拠り所ともなった。

が、ジェセック教授はこのロンドンチームの論文について、「公式に医学誌に発表されたものでもなく、他の専門家らが精査していない、推測ベースのレポート」と一蹴。「数字は悲観的過ぎると思う」と見立てている。

「人々を感染から守るはずのハードロックダウンは、介護施設に住む老人や虚弱者を守れないことが明らかになった。また、新型コロナによる死亡率も減少しない。これは、イギリスの事例と他の欧州諸国のそれとの比較を見れば明らかだ」
「他国の施策を見ても、ロックダウンが正しいとする明確な証拠となるものがなく、それは学校の閉鎖やソーシャルディスタンスも同様だ」
「コロナウイルスには誰もが感染するが、ほとんどの場合症状が表に出ないか、出ても弱く、パンデミックの大半は水面下にとどまる」
「拡散そのものを防ぐ手立てはほとんどない。ロックダウンは(感染者・死亡者数の)グラフの曲線を平坦にはできるかもしれないが、深刻な状態となる時を先延ばしするだけだ。各国の今後1年の死亡者数は、ロックダウンする、しないに関わらず近い数値になると思う」(いずれもジェセック氏論文より)

当初はスウェーデン同様にロックダウンなしで対処していたイギリスが、ジョンソン首相本人の感染や死亡者数の急拡大を受け、180度政策を変えてしまった。ジェセック教授は「残念だった」と記している。

ロックダウンを言い続けるのは、経済的に余裕がある人たち?

すでに各国が経験していることだが、(日本の自粛も含めた)ロックダウンで難しいのは経済活動とのバランスのとり方と、出口戦略だ。解除のタイミングがわからないのである。仮に感染者数が減ったときに解除すれば、また感染者数が増える。だからまた封鎖して……を繰り返すことになり、その間に経済活動が受けるダメージは計り知れない。感染者数の増加だけを理由に自粛やロックダウンを言い続けるのは、経済的に余裕がある人たちなのかもしれない。

もう1つの注目ポイントは、スウェーデンの施策の目的が、巷間でいわれているような「集団免疫の獲得」ではないとしている点である。すでに広く知られているが、集団免疫の獲得とは、ある感染症に対して集団の大部分が免疫を持たせることによって、免疫を持たぬ人々を保護するという感染予防の手法。要するに、「感染させることで、みんなにウイルスへの抵抗力をつけさせる」というわけだが、日本も含めた他の国々でも、「集団免疫の獲得を目指しているのがスウェーデン」はほぼ通説になってしまっている。

実は、集団免疫について厳密にいうと、感染して抗体さえできれば万事OKというわけではないという。抗体ができた後でも、感染・発症するリスクがゼロではないのだ。それもあってか、スウェーデンおよびジュセック教授にとってはあくまで「結果としてついてくるもの」という位置づけなのである。