——「エンバーミング」という仕事の内容を教えてください。

【橋爪】エンバーミングは、ご遺体が腐敗する原因となる血液を、防腐効果のあるホルムアルデヒドを主成分とした薬液に入れ替えることなどの処置によって、火葬までの間、お身体が変化することなく安らかな状態を維持することができるご遺体の衛生保全ができる技術です。

生前お元気だったころの面影に近づける施術をおこなった後は、お身体のアフターケアをすることによって、ほとんどの場合、ドライアイスを使用せずにその状態を保つことができます。その穏やかなお姿を見ることや故人と一緒の時間を過ごすことを通じて、ご遺族の心の悲しみ(グリーフ)を癒やすためのきっかけを与える手段だと思っています。

——著書でも、血管に薬剤を注入することで生前のような血色を取り戻し、よみがえったご遺体を前に喜ばれる何組ものご遺族の姿が描かれていましたね。

【橋爪】はい。そうした経験を積む中で、アメリカで喜んでいただいたことを日本でも試してみたい、大切なご家族を亡くした方々の役に立ちたいと思うようになったのです。

感染症対策に表れる日米の違い

——アメリカでの葬儀業界を知る橋爪さんにとって、日本とアメリカの違いは何だと考えていますか?

【橋爪】ご遺体に対する考え方ではないでしょうか。例えば、日本では葬儀業者がご遺体をお迎えに上がる場合、病室、もしくは霊安室に行きます。しかしアメリカの場合、ご遺体はほぼ100%「モルグ」と呼ばれる遺体用冷蔵室に保管され、そこへお迎えに行きます。ご遺体安置のために追加の深夜料金を払うくらいなら、朝までモルグで保管することを希望されるご遺族が多いからです。

また、感染症対策も大きく違います。アメリカの葬儀社では、会社を出発する前にまず、自分自身の身を守るためのマスク、手袋、防水性ガウン、ゴーグルといった「個人防護用品」、そして、ご遺体を入れる納体袋、手指用消毒剤などが用意できているかどうかをチェックします。

私たち「エンバーマー」には、そのライセンスを与えられたと同時に、感染予防の最後のとりでとなるプロとしての役割と責任が発生します。感染症にかかって亡くなったご遺体が入っている納体袋には「バイオハザード(生物災害)」のシールがしっかりと貼られているほどです。

写真=AFP/時事通信フォト
棺に入れられたCOVID-19の犠牲者の遺体にバイオハザードのサインが確認できる。2020年5月1日、メリーランド州

今回、海外事情を調査してみて分かったことですが、エボラ出血熱のご遺体は、感染症防御の納体袋を3重にして入れるという徹底ぶりでしたね。