武士の誕生も元をたどれば感染症がきっかけ

【増田】当時、農地にはいくつかの種類があって、高級官僚や寺社は税を免除されていました。その結果、農民たちは開墾した農地をこうした有力者に売り、売った先で働くという雇われ農民になります。要はサラリーマンですよね。自分の土地はないけれど、労働を提供して賃金を得る。この方が、自分で農地を耕して税金を納めるより、働いて賃金をもらえるので、農産品の出来不出来など、リスクも低くなって、生活が安定します。こうして広大な農地を経営する人たちが出てくるわけです。それが荘園の誕生です。

池上彰、増田ユリヤ『感染症対人類の世界史』(ポプラ社)

【池上】おおー。感染症が契機になって社会が大きく変化しました。

【増田】特に東大寺などの大寺院は広大な原野を独占するんです。国司や郡司の協力を得て、農民たちを使って灌漑施設などもつくっています。大規模な原野の開墾も開始され、荘園の経営が始まっていくのです。ここで、よりいい土地を自分たちのものにしようと、力ずくで奪おうとする輩も出てくるわけです。そういった輩から土地を守るために生まれたのが、武士の始まりになります。

【池上】今でいうガードマンが生まれたわけだ。すごいですね。歴史がきちんとつながって見えてきます。そして感染症からそんな歴史の変化が見えてくるなんて。

【増田】何か自分なりのテーマを決めて歴史を見ていくと、流れがよく見えることがあります。感染症についても流行する前の社会の状況と、収まってからの社会にどういう変化が起こっているかに注目すると、こんな歴史の動きも見えてくるんですよね。

【池上】まさに墾田永年私財法は、感染症をはじめとした疫病や飢饉といった災害への復興政策ですからね。それが大きな社会的な変化へとつながっていった。今も新型コロナウイルスですごく景気が悪くなっていますから、安倍政権の経済対策に関心が集まっています。その政策によっては、今後の日本社会も大きく変わっていく可能性があるわけです。

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