なぜ鉄道イベントにこんなにも人が集まるのか

背景には鉄道ファンの裾野の広がりと、消費行動の変化があるように思われる。ここ15年でメディアが鉄道趣味を積極的に取り上げるようになり、また有名人も自身が鉄道ファンであることを公言しはじめ、鉄道ファンはすっかり市民権を獲得した。

鉄道ファンが増加することで、ファンの在り方も変化してくる。元々、鉄道趣味は記録としての写真撮影や鉄道模型や乗車券の収集など、「モノ」へのこだわりを見せるアプローチが多かったが、近年は鉄道旅行やイベント参加など「コト(体験)」を重視する層が中心になりつつある。

これを象徴する出来事が、3月14日の高輪ゲートウェイ駅開業であった。朝から冷たい雨が降りしきる中、開業初日の日付が入った乗車券を求める鉄道ファンが大勢集まったのは、コレクションとしての乗車券が欲しいのではなく、開業初日に行ったという体験が欲しいのである。鉄道趣味のアトラクション化とも言うべきだろうか。乗車券の購入を望む人々は最長で300分待ちの大行列となった。

「最初」や「最後」といった「節目」の大舞台は、逃したら二度と味わうことのできない体験である。非日常の体験を求めて集まる人々からすれば、混雑や混乱がある方が盛り上がるのだ。近年、ラストランなどに集結し、駅のホームや車両を占領して騒ぎたてる「葬式鉄」と呼ばれる一部の迷惑な鉄道ファンも、こうした文脈から理解した方が分かりやすいはずだ。

「東京駅開業100周年Suica」発売時には暴動も

近年は車両基地の公開イベントや沿線ウォーキングイベントなどを見ても、異常な混雑が発生しており、イベント会場内でトラブルが発生したり、近隣住民から苦情が寄せられたりするほどになっている。一部の事業者はフリー参加制から事前応募抽選制に切り替えるなど、来場者の制限に乗り出しているが、今度は何度応募しても当選しないという声が上がるなど、対応に苦慮しているという。

2014年には、JR東日本が東京駅開業100周年記念Suicaを限定1万5000枚で発売したところ、早朝から1万人近い人が並ぶ長蛇の列ができ、大混乱に陥った。発売開始時間を繰り上げて対応するも、さらに多くの人が集まったため、途中で販売を打ち切る騒ぎとなってしまった。これに不満の声が続出し、混乱はエスカレート。半ば暴動のような状態になり、東京駅の模型など展示品が壊される事態になった。

結局、JR東日本は希望者全員が限定Suicaを購入できるようにして、1年間かけて発送した。申し込み枚数はなんと約500万枚にも達したという(最終的な発行枚数は427万枚だった)。皆がそこまでして限定Suicaを欲しがったというわけではない。これが最初から抽選制の発売だったら、ここまでの盛り上がりは見せなかっただろう。東京駅で大行列を作るという体験と、「炎上祭り」への参加で、限定Suicaは二度も消費の対象になってしまったのである。