電子音楽の教室では、お経を音楽として聞かされた

【三宅】そこに、はまったわけですね?

【ロバートソン】はい。日米両国で教育を受けた関係で、一貫して自分の居場所をみつけようと努力してきた生い立ちがあります。電子音楽のように、どのメインストリームにも属さない新しい領域に惹かれたことはその後の人生において大きかったですね。

【三宅】電子音楽のクラスでは、どんな授業をするのですか?

【ロバートソン】たとえば一学期の授業では「まず耳を鍛えよう」ということで、バリ島の民族音楽ガムランや西アフリカの部族の伝統音楽、それに日本のお坊さんの声明(しょうみょう)まで、いろいろな音を聴かされました。こういう音を延々とトランス状態で聴くわけです。すると大半の学生は「なんだこれ。つまらない」と言ってどんどん脱落する。

【三宅】なんとなくわかる気がします(笑)。

【ロバートソン】ほかには、「議論する余地がない」と文句を垂れる学生が多かったですね。「この音楽の意図はなんだ」とか「ベートーベンの曲には結論があるが、これにはない。よってこれは音楽ではない」みたいにやたらと理屈っぽいことを言う。

【三宅】そのとき教授はどう返答されるのですか?

【ロバートソン】「もうこなくていいよ」と(笑)。結局、頭が柔らかくて、これらの音を音楽として認識できる学生しか残りませんでした。私はその先頭を走っていましたが(笑)。

仕事をする上でのポリシーは「セカンドオピニオン」

撮影=原 貴彦
イーオン社長の三宅義和氏

【三宅】モーリーさんはその後、ラジオのパーソナリティ、テレビのコメンテーターなど活動の幅を広げられていくわけですが、仕事をする上でのポリシーはおありでしょうか。非常にバランス感覚に長けたコメントをされる印象があるのですが。

【ロバートソン】いつも意識しているのは「セカンドオピニオンを探しに行く」ということで、これは私の意識に染み込んだ考え方です。セカンドオピニオンがあるということは、判断の選択肢が増えるということですよね。その結果、一段高い視点から物事を捉えられるようになり、より冷静な判断ができるようになります。

言い方を変えれば、世間一般で「常識」や「主流」とされているものを無批判に受け入れるな、ということです。報道しかり、世論しかり。額面どおりに受けて止めていると知らないうちにリスクを背負いかねないと思います。