検査してもらえず、自宅で重症化していく
この頃、キヨコは喉の痛みと体調不良を抱え、オフの日に近くのクリニックに行った。診断は扁桃腺の腫れだったが、自分も感染しているのではないかという心配が頭から離れない。そうなれば1番つらいのは家族だ。仮に陽性であっても、よほどの重症でない限り入院はできず自宅隔離になるだけ。同居の夫は「自分がホテルに行くから」と言ってくれるがそれも申し訳ない。
夫には高齢の両親がいるが、2人とも感染を恐れ息子夫婦とは接触しないようにしていた。
そもそも検査はそう簡単に受けられない。ニューヨーク州ではやっと1日あたり1万5000人の検査態勢になったが、ニューヨーク市内に限っては患者の増加スピードに検査が追いつかず、ひどい咳、高熱、胸の痛みというかなりの重症にならない限りは検査してもらえず、家に帰されたという人が何人もいる。医療関係者でさえ希望して検査が受けられるようになったのはつい最近なのだ。
それに、病院に行けばむしろ感染するリスクが高くなる。だから少しのことでは我慢して病院にかからない人も増えており、そのために命を落とす人も少なくない。
しかし、彼女はまさか義理の父がそうなるとは夢にも思わなかった。
夫の家族2人に訪れた悲劇
「夫から父の具合が悪いと言われたのですが、意識もしっかりしているしコロナの兆候がないので、病院に言ったら感染すると思い、家にいた方が安心かもとアドバイスしてしまったんです……。コロナのことがなければ『すぐに病院に行って!』と言っていたのですが、後悔です」
義理の父はその後症状が悪化、車で病院に連れて行く途中で亡くなってしまったという。75歳だった。まだまだ現役で自分の会社を仕切っていた義理の父のあっけない死。
感染の疑いもあったが、亡くなってしまった今その死因を知る方法はない。
彼女は自分を責める暇もなかった。今度は義理の兄がコロナに感染し、他の病院のICUに運び込まれ、挿管されたという知らせが入ったのだ。
夫と息子の悲劇に、義理の母はショックと心労で体調を崩してしまった。キヨコも胸や喉が痛い。ついに感染したかと覚悟したが、自宅療養する義理の母に食事を届けたり、休む暇もなく走り回ったりしている間に症状はいつしか消えていたという。「おそらくそれほどのストレスだったのだろう」と彼女は振り返った。
幸い、義理の兄はその後一命をとりとめた。