刑務所や無人島にもサウナがある
お風呂の感覚でどこの家にもあり、その代わりお風呂のバスタブはあまりない。アパートの各部屋の浴室に小さなサウナがついていることもあるし、それがない場合はたいてい共用サウナが地下や屋上についている。
私が留学していた時は、学生アパートに共用サウナがあり、さらに研究棟や学部にもサウナがあった。また、職場にもサウナがあることは珍しくない。従業員が仕事帰りに楽しめるようになっていたり、お客様の接待用もある。高齢者施設や刑務所にもサウナはあるし、無人島にも船やボートで来た人が使えるサウナが存在している。
アイスホッケー場に行けば、試合を見ながら入れるVIP観客用のサウナ、観覧車やリフトのワゴンがサウナになっているものもあるし、氷でできたサウナ、持ち運びが容易なテントサウナ、サウナがついているバスや船まである。逆に、サウナのないところを探すのが大変なぐらいだ。
サウナには一人で入ってもいいし、誰かと一緒に入ってもいい。一人の時は静かに楽しめるし、誰かと一緒の時は、語り合って交流することもできる。普段シャイであまり社交的ではないフィンランド人だが、あるフィンランド人は「サウナは唯一、素面でも知らない人と気軽に話ができるところ」と語る通り、サウナの中では自然に会話が生まれる。
石に水をかける時、「かけてもいいですか」や「熱くないですか」と話しかけたり、外気浴をしながら「天気がいいね」なんて話ができる。友人たちと入っている場合も、サウナの中にいられるのはたかが5分だったとしても、外気浴とサウナを何度か繰り返すうちに、1~2時間はあっという間に過ぎていく。
サウナは人が生まれ、死ぬところ
では、フィンランド人にとってサウナとはどんな場所なのだろうか。ここ最近、日本で公開されるフィンランド映画を見ていると、必ずと言っていいほどさりげなくサウナの場面がでてくる。戦場から帰ってきて家族とくつろぐシーンでサウナに入っていたり、戦争中であっても皆でサウナに入って湖で泳いだり、日常の描写にサウナは欠かせない。たとえ非日常な場所やストーリーであっても、サウナや外気浴のシーンが観客に安心感を与えているように感じる。
家のサウナはリラックスの場であり、家族との会話の場である。家族は男女関係なく裸で一緒に入っても不思議ではない。つい60年ほど前、まだ出産が自宅で行われていたころは、サウナが出産の場所であった。もちろん80度に部屋を温めていたわけではない。サウナは清潔で、水もお湯も手に入り温かい場だったため、都合が良かった。同じ理由で、サウナでマッサージをしたり、人が亡くなった時はサウナで遺体を清めたりしていた。つまり、生の旅路の始まりと終わりにサウナがあったのだ。
また麦芽を製造したり、穀物を乾燥させたりといったことでも使われていた。今でも、蒸気がひいた後に洋服を干したりしてサウナの利用範囲は広い。