安心して愚痴をこぼせる環境がない

【塚本】自助グループに行ったとき、みんな平然と「しんどい」と口に出していたので、当初、すごく新鮮だったし不思議でした。でも、よくよく考えると「しんどい」と言える場所って、我々の生活ではほとんどないですよね。

【松本】うっかり口に出そうものなら説教されちゃいますよね。

写真=永井 浩

【塚本】そうなんですよ。会社で「しんどい」なんて言ったら、「いや、もっと頑張れ」と返される可能性もあるし、評価が悪くなるリスクもあります。

【松本】安心して愚痴をこぼしたり、泣き言を言えたりすることが許される場所がないですよね。会社の産業医や産業カウンセラーがいる場所だったら大丈夫かと思いきや、勘の鋭い人は「裏で経営陣と繋がっているのでは?」と疑ってしまいます。僕だったら絶対にそう疑うし、相談できませんよ。ましてや「違法薬物をやめられないんです」なんて口が裂けても言えませんよね。

【塚本】施設に通っているとき、アルコール依存症で「産業医に勧められて施設に入った」という人がいまして、これは素晴らしいことだと思いました。さらには、「産業医に勧められてアルコール依存症から回復した」といった内容を社内広報で取り上げるケースもあるそうで、感心しました。ただ、さすがに薬物となると難しいですよね。

薬物のことをオープンに相談できる場所が必要だ

【松本】EAP(従業員支援制度)のようなメンタルヘルスは、アルコール依存症の支援から始まったという歴史があります。ようやく日本も常識的になってきたと思いますが、薬物の場合はまだ無理ですね。

塚本堅一『僕が違法薬物で逮捕されNHKをクビになった話』(KKベストセラーズ)

よく、薬物の問題を抱えている会社員の診断書を出すことがありますが「薬物依存」とは書けません。「うつ状態」などと診断名とは言えない表現で濁すんですが、それを見た産業医が僕の名前をネットで検索して「この先生って薬物依存の専門じゃない?」と突っ込まれることもあるようです。

【塚本】薬物依存から抜け出そうと通院していても、その通院歴が健康保険でバレてしまうのでは、と不安になる人もいる。心配を取り除きたいのに、通院そのものが心配の種になってしまうと、治療に繋がるだけでも大変です。

【松本】結局、いまの日本ですぐに通院を選択できる人は、残念ながら「あらゆるものを失って望みがなくなった人」くらいなんですよ。だから、もっとクスリの話に限らず、日々の困りごとについて、安心して相談できる場所を提供することが必要だと思います。

何かを相談する際、薬物に関わる話題が出てくることも当然ある。でも、ここで薬物のことを隠して相談したらカウンセリングにならないので、すべてを隠さずにオープンに話す場所があれば、明らかに乱用者の進行を食い止めることができると思う。ただ、いまの日本だと難しいかな……。悩ましいですね。

(構成=松本晋平)
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