制裁が厳しすぎることの問題点

写真=永井 浩

【塚本】私も家に捜査官が来たとき、妙にスッキリした感覚がありました。自分が使用していた製造キットが怪しいモノだと薄々気づいていたけど、法律に反しているかは分からない。そんななかで、彼らに「怪しいモノはないか」と尋ねられて製造キットを指差したとき、「ああ、やっぱりダメなモノだったんだ」と納得できたと言いますか……。私は依存症ではなかったので感謝とまでは言いませんが、逮捕が薬物をやめられるきっかけになるというのは、よくわかります。

【松本】日本の薬物に対する厳しさは悪影響が多いのですが、数少ない良い部分を挙げるとすれば「深刻な状態になる前に、やめるきっかけを与えてくれること」だと思います。事実、アルコールや市販薬の依存症患者に比べ、違法薬物の依存症患者の方がはるかに内臓が元気だし、脳も縮んでいないし、依存の重症度も軽いんです。まあ、それはそうですよね。週末の楽しみとして週1回晩酌する人を誰もとがめませんが、これが薬物だと犯罪となってしまうわけですから。

しかし、見方を変えれば、逮捕されることで、依存が進行するかなり手前の段階で支援の場が用意される、というメリットがあるわけです。ただ問題なのは、逮捕後の法的な制裁や社会的な制裁があまりにも厳しすぎること。結果的に、その制裁によって孤立し、再び薬物依存に走るという悪循環を引き起こしてしまう。

なぜか薬物問題は専門家の意見が聞き入れられにくい

【塚本】このように薬物依存症の人たちをフォローするような立場で話をしていると、「最初に薬物に手を出したのはオマエだろ」「自業自得だ」といった反論を受けることが非常に多いですよね。たしかにその通りなんですが、とはいえ、病気になってしまったわけで、その病気から回復しようとする人たちすら糾弾し続けるような、行き過ぎた風潮には疑問を感じます。

また、「違法薬物の購入は暴力団の資金源になる」という指摘もありますが、資金源にならないようにするならば、それこそ上客になり得る人の更生を支援するべきなのでは? こうした内容を多くの専門家が語っているのに、なぜか耳を傾ける人が少ない。テレビにしても、あらゆる問題について専門家の話をありがたく聞いているのに、なぜか薬物に関しては自己判断で反論する人が多いように感じます。ほかの国ではどうなんですか?