そして、一般人は、みずからが外交のプレイヤーとなることはなくても、もっと具体的に外交の何たるかを知っておいたほうがいい。間違っても「雲の上で行なわれている、庶民にはよくわからないこと」で片付けてはいけない。外交には国益がかかっており、国民の利害に直結するからだ。
「経済同盟」と「軍事同盟」は一体になって当然だ
貿易と安全保障は、密接につながっている。経済的結びつきが強ければ、軍事的結びつきも強くなるし、その反対もまたしかりだ。対立し、いつ戦争になるかわからない相手とは誰も貿易しない。
ひとたび戦争になれば、相手国への投資がムダになるばかりか、貿易のために相手国に駐在している自国民が拘束されたり、はては殺害されたりといった被害に遭う危険も高まる。
このように単純に考えても、貿易は、戦争が起こる可能性がきわめて低い国、すなわち安全保障条約が結ばれており、軍事的結びつきが強い国と行うことが前提となる。
貿易が盛んな国とは、必然的に安全保障上の関係も強まるし、安全保障上の関係が強ければ、貿易も盛んになる。
お互いの利益を守るためには、軍事的な争いを避けることが一番だ。また、貿易をしてお互いに利益を持ち合っているのだから、片方の危機はもう片方の危機にもつながる。
たとえば、貿易の相手国が他国から攻撃され、国内経済がめちゃくちゃになったとしたら、その経済的損害は自国にも降りかかることになる。
貿易の盛んな国とは一蓮托生、リスクを共有しているということだ。だから「経済同盟」と「軍事同盟」は一体になって当然なのだ。
「川を上り、海を渡る」思考とは何か
物事を考える際には、「過去に似た事例はなかったか」「海外に似た事例はないか」と探ってみることが欠かせない。こうしたものの見方を、「川を上れ、海を渡れ」という。私が官僚時代、先輩諸氏からつねづねいわれていたことであり、今も、ものを考えるときの基本の1つになっている。
今、考えている問題に似たような出来事が過去になかったか。海外になかったか。
あったとしたら、どのような経緯をたどったか。
「川を上り、海を渡る」と、先例から学べるとともに、物事の因果関係がわかってストンと腹落ちすることも多いのである。これは何を考える際にも重要な視点だが、こと国際関係を考える際には欠かせない。国と国のお付き合いこそ、過去、それらの国の間で何があったかという経緯が、今と将来の関係を決定づけるからだ。
「川を上る」――歴史を振り返る際に、何が基になるかといえば、中学や高校レベルの世界史だ。
私はプリンストン大学に留学した際、国際政治学を学んだ。そこでは、博士レベルの高度な知識を身につけたわけだが、じつは外交問題で歴史を振り返る際中学、高校で習った世界史が意外と役に立つことも多い。
歴史的経緯も踏まえて考えることで、今、何が起こっているかをより深く理解し、今後、どうなることが望ましいかについても、ある程度、確度の高い見方ができる。