ほれぼれするような速い動きの秘密

――それで納得しました。ほれぼれするような速い動きの秘密も。

脳と筋肉との連携が速いらしい。自分でも実感することですが、取組の相手とは時間の感じ方が違うと。相撲に限らず、アスリートが「ゾーンに入る」って言うでしょう。それとはちょっと違うんですけど、攻防がやけにゆっくりと見えるんですね。

――取組中に? 力士の多くは「立ち合いだけ思い切って」とか「よく覚えてない」などと言いますが……。

そう。相手の動きがコマ送りのように見える。脳がフル回転しているためだって。野球の川上哲治さんが言った「ボールが止まって見える」というのと似てるかもしれません。

――19年春場所の優勝(42回目!)インタビューで「三本締め」を行って、物議をかもしました。

平成最後だったし、良いことと思ってサービス精神でとっさにやってしまった。本当は全部終わったあとで新弟子や若い力士たちが締める。そういうしきたりを知らなかった。だから、勝手に締めたらダメって怒られた。

――報道では、八角理事長がすごい剣幕で怒ったと。理事長が大横綱を怒鳴りつけるとは。どんな感じだったんですか。

それは、あのときだけのことですから(笑)。

――一対一だったのですか。

いえ、理事の親方が全員いました。怒ってくださったことに感謝しています。勇み足だと反省しました。

――白鵬関は、横綱昇進以降の時間が長い。どんな思い出が?

横綱に上がったときも、まだまだわからないことばかりでした。尊敬する大鵬さんとお話ししたくて、約束もせずに突然部屋へ行きました。二人で5時間くらい話しました。横綱の心構えなど、やさしくアドバイスしてくれました。部屋のおかみさんが「この子、いつまでいるんだろう」って顔で見てましたね(笑)。

――横綱の気持ちは、横綱にしかわからない。

本当にそう思う。大関時代には、「番付の差はひとつだけ」と思っていた。肩書が違うだけで相撲の力は変わらないんだと。でも横綱になってみると心の持ち方がまるっきり違う。そこのところ、わたしはよく富士山にたとえます。山頂が横綱。大関はふもと

――五合目とかではなく、麓?

麓です。そのくらい違う。横綱にもいろいろあって、双葉山関のような域に達すると、富士山の上にもうひとつ富士山を乗せた、そのてっぺん(笑)。