グループ総力で取り組まないと、GAFAに駆逐される
だが、サービスを利用するのが人間である以上、経済圏における人口以上に事業を拡大させることはできない。あらゆるサービスをネット化することで、リアルなビジネスから顧客を奪ってくることは可能だが、それにも限界がある。インターネットの黎明期、試着が重視されるファッションの分野は、ネット・シフトが進みにくいと指摘されていたが、ゾゾの躍進を見れば、そのフェーズもすでに過ぎ去ったことが分かる。
つまり、2000年前後に本格化したネットビジネスはいよいよ成長の限界を迎えており、近い将来、完全にパイを奪い合う市場に移行する可能性が高い。もしそうだとすると、ゆっくりと事業規模を拡大している暇はなく、シナジーが見込める企業は片っ端から買収して市場シェアを高め、来たるべき寡占化時代に備える必要がある。
ヤフーとLINEは経営統合の理由として「GAFAに対する危機感」を挙げているが、これも同じ文脈で理解してよいだろう。GAFA各社はネットビジネスにおける成長の限界を超えるため、1兆円単位の金額を次世代の成長エンジンである人工知能などに費やしている。
だがヤフーとLINEの2社を合わせた研究開発費はわずか200億円しかなく、GAFAとはケタがあまりにも違い過ぎる。ソフトバンクグループが総力を挙げて取り組まないと、たちまちGAFAに駆逐されてしまうだろう。
統合メリットを生かす「スーパーアプリ」開発が必須
だが現実問題として、これだけの規模の買収案件をスムーズに進めるのは並大抵のことではない。ヤフーはニュースに代表される各種コンテンツ事業、ヤフーショッピングとヤフオクを中心としたEC事業、PayPayが提供する決済事業などを抱えており、ジャパンネット銀行を通じて金融サービスも提供している。
一方、LINEはメッセージ・アプリを中心に、EC事業、コンテンツ事業、金融事業、決済事業などを行っており、重複するサービスも多い。
両社が持つサービスを統合すれば、消費者の生活をほぼすべて丸ごとカバーできるので、統合メリットを最大限生かすためには、生活に必要なあらゆる機能を盛り込んだ、いわゆる「スーパーアプリ」の開発が必須となる。
ヤフーは中高年層の利用も多く、LINEは若年層に人気なので、その点においては相互補完的といえる。だが利用者の属性が異なる2つの主要サービスを統合するのは簡単ではなく、一歩、間違えると、両方のヘビーユーザーを失うリスクもある。完璧なスーパーアプリを開発できるのか、事業者としての能力が問われているといってよいだろう。