もはや年金制度の枠内での改革には限界
以上のようにみてくれば、皮肉な言い方になるが、今回の財政検証の結果の最大のメッセージは、少子高齢化・長寿化が進むもとで、老後の生活保障に向けて公的年金制度がその機能を果たすには、実は年金制度の枠内での改革には限界があることを明らかにしたことではないか。もちろん、マクロ経済スライドの強化など、年金制度の枠内でできる限りの改革を進めることは不可欠である。
しかし、日本経済が直面している人口動態変化のもとでは、年金財政の健全性や世代間の不公平性に焦点を当て過ぎると、加えて年金制度内でできる制度改正に視点を矮小化してしまうと、パイの取り合いに終始し、世代間対立を煽って閉塞状態に陥る。
繰り返し述べるが、少子高齢化・長寿化が進むもとでは、“より高い賃金で”“より長く働く”ことが可能になる状況の創出こそ、今後の日本国民が安心を得るための最大の取り組み課題になる。それを促進するようにまずは産業構造・労働市場・社会保障・税制等のトータル・ビジョンを描いたうえで、雇用政策、産業政策、税制などの見直しと一体的に連動させる形で年金制度改革を行うという、基本的な発想の転換こそ年金制度改革にいま最も求められていることであろう。