「自分はこのために生きてきた」と思える瞬間

インタビュアーという第三者が入ることで、宇宙飛行士の言葉は当事者自身が綴るのとは別の意味を持つ。

《本に書かれている話の中でも、他の人のインタビューでも、読みながら、僕はもっと話を聞きたいなと思った。書かれているから、自分が書かなくてもいいという考えは最初からなかったかな。

宇宙飛行士になるまでの話、行ってからのプロジェクトはよく書かれているけど、読みながら知りたいことがたくさん出てきましたから。

僕はこれまでも、キャリアの中にある「自分はこのために生きてきた」と思える瞬間を描いてきました。その瞬間に何を感じたか、それが自分の人生のその後にどう影響してかを聞くことに、ノンフィクションの書き手としてもこだわってきたと思うんです。

宇宙飛行士にとって「宇宙に行った瞬間」が何だったかを聞きたかった。》

撮影=プレジデントオンライン編集部
ノンフィクションライターの稲泉連さん

「やっぱり思っていた通りだった」という人も多い

稲泉はインタビューのなかで「仕事」については、そこまで重きを置いていない。最先端の技術や、宇宙開発の歴史にも深くは立ち入らない。徹底的にこだわっているのは、立花の本と共通している抽象的な問いだ。

《そこは結構、面白がってくれる人が多かったんです。

10代の時に立花さんの本を読んで衝撃を受けたのは、神秘体験や宗教観の言葉だったんです。でも、あらためて読み直すと各人に温度差はかなりあって、まったく変わらなかったという人も出てきます。

聞いてみると、宇宙に行くまでに歩んできた人生で何を考えてきたかが大事なんですよね。劇的に価値観が変わるというよりは、「やっぱり思っていた通りだった」という人も多かったかな。宇宙に行ったことで、自分の人生経験で感じてきた、価値観がより強くなるんです。》

価値観が変化したという宇宙飛行士もいる。象徴的なのは、元航空自衛官パイロット・油井亀美也(2015年に宇宙へ)の言葉だ。