現場の実情に迫る前に、施術と資格の種類についてまとめておこう。「整形外科」は国家資格の医師免許証を持つ整形外科医が、骨・関節・筋肉、神経などの疾患や外傷を、投薬、手術などを通して治療する医療行為だ。押す・揉むなどの手技を駆使して体の変調を改善するあん摩マッサージ指圧師は、医業類似行為に分類されるが、同様に国家資格が必要。あん摩、指圧、マッサージという各々異なった専門技術を有して「マッサージ店」を開業できる。柔道整復師と鍼灸師も国家資格が必要だ。前者は柔術を起源とする治療法を用いて、脱臼・骨折・打撲などを整復する「整骨院」を、後者は手技ではなく鍼や灸を用いて治療を行う「鍼灸院」を開業できる。

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対して、街中でよく見かける「整体院」「カイロプラクティック」は、法的な資格制度がない、おもに民間の認定資格。整体は手技の療法全般を表すケースが多く、カイロプラクティックは脊椎の調整によって体調を整えるアメリカ発祥の技術だ。前出の業界関係者は、「健康被害の治療トラブルが目立つのは、整体院です」と指摘する。

「本来、国家資格がないのにマッサージをするのは違法行為。そこで、法律の網の目をくぐるため、マッサージではなく『整体』を掲げている施術所が多い。民間資格と国家資格の医療知識は全然違います。国家資格でも施術が下手な人はいますが、最低ラインの知識と技術を持っている。民間資格は上手な人も下手な人もいるけれど、下のレベルが果てしなく低い。そんな施術が一部で行われているため、治療トラブルが起きやすくなるのです」

マッサージ店や整骨院は厚生労働省の管轄で、開業する際には保健所の審査が入る。しかし整体院は業務内容や技術レベルをチェックする国の公的機関はない。保健所への届け出も不要だ。

「マッサージ店や整骨院は広告規制がきびしく、メニューも書くことができず、宣伝できることがほぼありません。一方、整体院は広告規制が少なく、少し前までは『必ず成功』『日本有数の実績』など、何を書いてもほとんど許されました。最近は消費者庁のチェックが入るようになりましたが、それでもやりたい放題です」(業界関係者)

結果、施術のレベルは低くても、大風呂敷を広げる整体院が繁盛する側面があるのだ。

資格を持っているが「無免許」の場合も

では国家資格所有者なら安心かといえば、そうともかぎらない。実は国家資格を持っているが、専門外の治療を行っている「無免許」の施術所もある。

背景にあるのは、柔道整復師や鍼灸師の増加だ。もともと、柔道整復師・鍼灸師の学校を新規開設することは行政によって制限されていた。しかしそれは不当だということで、設立を望む専門学校が国を提訴。1998年に国が敗訴すると、専門学校だけでなく、塾、自動車教習所など異業態からの参入が相次いだ。それに伴い、柔道整復師と鍼灸師の数は急増した。