なぜワインの質が経済学者によって予測されるのか
これらの研究結果から私が導き出した直感に対する結論は、トム・クルーズの演技力についての私の意見と似通っている。偽りではないが、過大評価されて、多用されすぎているのだ。
では、複雑な状況において、我々が直感に頼ることに代わる方法があるのだろうか。
もちろんある。データの集積の中にパターンを見つけて、因果関係について最も可能性の高い推定を生み出すための統計技法がいくつも存在しているのである。まともな統計学者はこれらの技法の有効性は立証されているなどとは言わないだろうが、実はかなり正確なのだ。
これらの統計技法は、ワインの評価を含めてほぼどんな場面にも応用することができる。たとえば、プリンストン大学の経済学者、オーリー・アッシェンフェルターは、冬場と収穫期の降雨量、および生育期の気温を説明変数とするモデルを作成し、それを使ってボルドー・ワインの質と価格を予測している。
著名なワイン評論家のロバート・パーカーは、アッシェンフェルターの手法を「笑えるほどばかばかしい」と切って捨てた。
だが、エール大学教授のイアン・エアーズが名著『その数学が戦略を決める』で述べているように、アッシェンフェルターの予測はピタリと当たっていた。
ワインだけでなく、大学進学後の成績、胃腸障害の診断、職業選択、誰かが辞職するか、自殺するかどうかといった問題について正確に予測できれば、多くの人が恩恵をこうむるだろう。これらはでたらめなテーマに思われるが、実は、統計に基づく数式が専門家の判断より少なくとも17%勝っていることが実証されているものだ。
では、人間が数式を打ち負かす分野はないのだろうか。2000年に発表されたある論文は、人間の判断を数式による予測と比較した136件の研究について調べている。これらの研究のうち65件では両者の間に実質的な違いはないという結果が出ており、63件では数式のほうが人間より大幅に優れた予測をするという結果が出ていた。
人間の予測のほうが大幅に優れているという結果が出ていたのはわずか八件。統計的に見ると、人間の直感は勝率が6%足らずで、明らかな敗北の割合が46%ということになる。