手土産すら受け取らず、拒否できなければ「倍返し」

小嶋千鶴子は自分にも厳しいが他人にも厳しい。自分に厳しいからこそ他人に容赦なく厳しい意見が言えるのであろう。

ジャスコになって間もない、あるときのことだ。

合併した会社の商品担当の役員を呼び出し、

「あんたとこの商品部は私が注文した炊飯器とは異なる高級な炊飯器を自宅に送ってきたが、これはどういうことや? 私は9800円のものを頼んだのに、届いた商品は1万6800円もする高級品やった。あんたが指示をしたのかそれとも部員が気をまわしてそうしたのかどっちや。あんたの以前の会社はそうして上の人の歓心を得るためにそういう風習があったのか。ジャスコはそういうことが一番嫌いな会社なんや」

と大声で叱責していたのである。

上のものに気を使って先回りをしてすることを極端に嫌ったのである。名誉も金も地位もお世辞も要らない無私の人である。

だから、盆暮れの贈答は当然のこと、小嶋を訪ねる訪問者からの手土産すら受け取らない。どうしても拒否できない場合には贈答の「倍返し」をする。

本来の忖度そんたくとかおもんぱかるとは人間としてのチョッとした心遣いであるが、上の歓心を得るために会社で横行すると、これは次第にエスカレートしていくものである。

組織の中で、上の歓心を得るための忖度は、組織を衰弱させ、大企業病に陥る一因であり、小嶋はこれをえらく嫌った。

バブルで盛り上がる中、本業に徹した

小嶋が役員を退任し、監査役だった時代のこと。

「ちょっとY君を呼んでくれんか?」と人事本部へやってきた。

「彼は第2資金部にいます」と応えると、けげんな顔で「第2資金部?」と言う。

Y君が人事本部へ来て、「第2資金部とは余剰資金を証券運用している部署で運用利益がこれだけ増大しています」と自慢げに話したところ、小嶋は烈火のごとく怒りだした。

東海 友和『イオンを創った女の仕事学校 小嶋千鶴子の教え』(プレジデント社)

「小売業の利益の源泉はどこや? 資金運用ならそれを小売にまわせ、そんな部署いらんしY君の使い方を知らん。君をそんな仕事のために育てたのと違う」

と言いながら、小嶋は財務本部に飛んでいった。

その後第2資金部は廃止となり、Y君もしかるべきところに異動した。どこの会社も証券運用に性を出し経常利益を出していた時代のことである。

バブルのとき、だれもが金融投資に明け暮れたが、ジャスコは決して舞い上がることなく、「上がれば下がる・下がれば上がる」という家訓を守り、本業に徹した。

この頑固さはそのまま小嶋の性格にも通じるところがあり、この頑固さこそが、イオンを日本最大の流通業にした理由なのだろう。

関連記事
なぜイオンは女性社員を大量採用するのか
北海道最強コンビニが「おでんをやらない」理由
柳井正"現実から考えること"を止めたワケ
なぜ若者は"実家近くのイオン"に集うのか
竹中平蔵「現代人は90歳まで働くことになる」