部下の忠誠心を駆り立てられる人こそがカリスマ

リーダーのなかには、強情で要求が厳しいにもかかわらず、忠誠心を駆り立てるタイプもいる。そうしたリーダーは大胆な考え方を称賛し、その姿勢がカリスマ性を生む。たとえばスティーブ・ジョブズは、テレビ広告の形をとった自身のマニフェストをこう始めた。

「クレージーな人たちに乾杯。はみ出し者。逆らう者。厄介者。変わり者。ものごとが世間と違って見える者」

アマゾンの創業者ジェフ・ベゾスも、同じように、人を駆りたてる力を持っている。肝心なのは、意欲をあおって使命感を共有し、届かないだろうと思われている目標まで人を引っ張っていくことだ。

ショックレーにはその資質がなかった。身にまとったオーラのおかげで優秀な人材を集めるまではできたが、管理能力がなく、いっしょに働きはじめたとたん、反感を抱かれてしまうのだ。ブラッテンとバーディーンがかつて抱いたように。

彼は「ショックレー半導体研究所」を興し、ほぼ全員が30歳以下という若く優秀な人材を全国から集めた。人望がないのでかつての部下は誰もついてこなかったが、名声があったので、片っ端からリクルートすることに成功したのだ。

新会社でのショックレーは、研究者たちが米国物理学会に提出する論文を書いたときも、特許を出願するときも、自分の名を共同執筆者として掲載するように求めた。にもかかわらず、「どんな装置にも真の発明者はただひとりしかいない」と、矛盾としか思えないことを主張した。

さらに、オーナーでもあるアーノルド・ベックマンとも対立した。コスト削減のミーティングにベックマンが駆け付けた時、ショックレーは幹部陣の前でこう言い放ったのだ。

「アーノルド、我々のやり方が気に入らないんだったら、グループごとほかの会社に移ったっていいんだぞ」

だが、ショックレーより先に去っていったのは、彼の部下たちだった。

「良い人柄+優れた能力=良いリーダー」というウソ

1950年代のアメリカにおいて、安定した会社を飛び出してライバル会社を起業するということはあまりなく、相当な覚悟が必要だった。若い社員ばかりなだけに、「ノーベル賞受賞者にしてカリスマであるリーダーに逆らうのは恐れ多い」という声もあった。

だが、控えめで温和な言動の裏に精緻な頭脳を隠し持った化学者、ゴードン・ムーアは、反乱軍を集める決意をする。そして集まった“8人の反逆者”はショックレー研究所を去り、フェアチャイルドセミコンダクター社を起業する。

“8人の反逆者”の中心となったゴードン・ムーアとロバート・ノイスは、成功を経てフェアチャイルドセミコンダクター社を去り、自分たちの会社を作ろうと再び起業。のちのインテルである。

だが、経営者となったこの二人は、優秀な好人物にもかかわらず、理想的なリーダーとは言えなかった。

ノイスはMITで博士号を取った半導体技術者。学園のヒーローがそのまま成長したような好人物で、人に刺激を与えるカリスマ性があったが、親切で協調性が高いぶん、強い指示ができなかった。

ムーアも似たようなもので、権威を振りかざそうとも人の上に立とうとも思わなかった。

○上下関係や階級を嫌う
○人に嫌われたくないという気持ちが強い
○怒らない、怒れない
○部下を指導しても、せきたてない
○意見の不一致があっても、対立を避ける

これでは理想のリーダーにはなれない。