POINT2「結果ではなく、過程に注目する」
心のエネルギーが十分に貯まれば、子供は自ら「成長したい」「何者かになりたい」と努力をするようになる。
だが、努力をしたからといって、望む結果が得られるわけではないのが人生だ。今回取材した親たちは「結果」より、「努力の過程」を大切にしていることも印象的だった。
医学部5年生の松永尚也さんは、小学校時代、進学塾に通ってがんばって勉強したものの中学受験で第1志望に落ちてしまう。気落ちしている尚也さんに母親は、「精いっぱい、力を尽くしたんだから、いいのよ。これも人生。受かった学校にこそ、縁があるんだよ」と声をかけてくれた。「気持ちがすごくラクになりました。そうか、そういう考え方もあるのかと前向きになれた。発想の転換を教えてもらった気がします」(尚也さん)
習い事が長続きしなかった前出・指原さんも小学校高学年で学ぶことの楽しさに目覚めて、中学受験をすることになったが、6年生の秋頃には「努力しても、落ちてしまったらどうなるんやろ」と急に不安に襲われたという。そんな時、両親は「わたしたちは合格しなくたっていいと思っているんだよ。いままで積み重ねてきた過程が誇らしいから」と言ってくれた。指原さんは、この言葉で「何のために勉強しているのかわかった」という。「大事なのは結果ではなく、努力の過程。合格発表を待たずして、努力が報われた瞬間でした」と語る。
テスト結果や偏差値「数字」ではなく「努力の過程」に着目
テストの点が悪い。偏差値が下がった。受験で志望校に不合格になった――。
「結果」に注目すると、子供を叱って、発破をかけたくなることが増えてしまう。しかし、「努力の過程」に着目すれば、何かしら認めてやれることがあるはずだ。「ダメ」地点からスタートするなら、なおのこと。成長を感じられる場面は多いだろう。
そうして気づいた時に、子供は親の想像を超えた高みに登っていたというのが今回取材した親御さんの実感だった。自分の子がまさか東大に入るとは思っておらず、心底驚いたという方が多いのも興味深かった。
ちなみに、中学受験で第1志望校に落ちた松永さんは、第2志望に進んだわけだが、入学早々に学年で上位の成績を取ることができた。そこで自信を持つことができ、理系の選抜クラスに入って東大理科Ⅰ類(2年が終わったときの進学選択で医学部へ)に合格した。
こうした経験から、松永さんの母親は「第1志望に落ちてよかったと思っています。運よく第1志望校に入っても、自分より優秀な子たちばかりで自信をなくしていたのではと思うのです」と振り返る。実際、周囲の子が優秀だと、子供の成績は下がるということが研究で明らかになっている。松永さんの母親の直感は、科学的にも正しいのだ。