「水」と書かれた段ボールを人だかりが取り囲んだ
アナウンスが流れ、今日の電車・バスはすべて終了したことが告げられた。翌朝すぐに電車に乗れるよう鉄道乗り場の近くで眠ろうと考え、寝る場所を探しに地下1階へ行った。鉄道の入り口はシャッターが閉められ、明日の朝4時半に開けられるとアナウンスされていた。
乗り換え検索アプリで調べてみると、乗ろうと思っていた京成本線の始発は、通常通りであれば5時17分だ。シャッターの前にもたくさんの人がいて、疲れ切ってぐったりと階段に座っている人がいる。私はシャッターから離れ、エスカレーター脇にスペースを確保できた。
残していた荷物を取りに2階へ戻ると、通路の真ん中に人だかりができている。近づいて近くの人に尋ねると、空港職員が利用客に寝袋を配るのを待っているとのこと。まもなく大きい台車を押した空港職員が現れた。「水」と書かれた段ボールと四角い銀色の缶が積まれている。台車を追うように人だかりが動き、取り囲んだ。
混乱を避けるためか空港職員はなかなか箱を開けようとしない。館内放送で、空港で夜を明かす人のために空港内の数カ所で水、クラッカー、寝袋を配布するというアナウンスが流れた。なかなか配られそうにないので私は荷物を回収して地下に戻った。
「空港の職員さんは本当にえらいね」
地下1階のエスカレーター脇にはたくさんの人がいる。寝袋を2つ抱えた女性が夫のもとに戻ってきた。「寝袋をもらおうとする人が大勢いて大混乱だったが、なんとかゲットできた」と、楽しそうに話している。
ふと下を見ると、コンセントがあり、スマホの充電コードがささっている。そばにいた男性に「少し借りてもいいですか?」と聞くと、快くOKしてくれた。彼は仕事で上海から帰国したところで足止めを食らったらしい。
その男性が、近くにいた日本人女性、外国人の男性、そして私の分の寝袋を取りにいくと申し出てくれた。外国人の男性は音楽を聞き自分の世界に入っている。男性の帰りを待つ間、女性と話をした。彼女は会社の休みを使ってイタリアを旅行していたという。夕方ごろに成田空港に着いてしまい、ホテルを探したもののすでに満室で、仕方なくここで過ごすことにしたらしい。
しばらくすると男性が4つの寝袋を持って戻ってきた。男性にお礼を言うと、「空港の職員さんはきちんと対応して本当にえらいね」と言ってまたどこかへ行ってしまった。寝袋に入り、夜1時ごろに眠りについた。