「必要だ」と思った時は、迷わず救急車を呼んでいい

ところで近年、増加し続ける救急搬送に国は「救急車の適正利用を」と叫び、医療機関への受診抑制にばかり舵を切っている。その言葉の背景には「軽症者は救急車を呼んではいけない」という考えがある。言葉を換えれば、あらかじめ“患者を選んでいる”わけだ。

撮影=笹井恵里子

本当に「受診抑制」しか救急医療を守る方法はないのだろうか。私は否だと考えている。前述した近著(『>救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』)に詳しく記したが、受診抑制や患者を選ぶ行為は、軽症だと思ったけれど実は重症である患者の見落としや手遅れを招く。また病院側にとっても、事前の患者選別が救急医療体制を混乱させている面がある。

「自分がつらい、救急車が必要だ、と思った時は、救急車を呼んでいいんです。それが結果的に軽症であっても」

前出の山上医師をはじめ、全国の救命救急センターの医師でそう口にする人が少なくなかった。読者には、たとえば「胃痛が心筋梗塞の兆候」であるように、一見軽症と感じられる状態にも重症が潜んでいることを頭にとどめておいてほしい。

治療後には「ありがとう」という一言を添えたい

繰り返そう。私たちが地域の救急医療を守っていくために、以下の3つのことが重要だ。

①急患を見かけたら迷わず手を差し伸べる
②自分に万が一のことが起きた時の意思を家族に伝えておく
③日々救急患者にならないように努力する。

そしてもう一つ、万が一患者として家族として救急医療にお世話になることがあったとしたら、治療後に「ありがとう」という一言を添えたい。月並みだが、それが昼夜休日問わず働く現場医師のモチベーション維持につながる。

地域の救急医療は、住民である私たちから変えていけるのだ。

関連記事
医師が自分の前立腺がんを"放置"するワケ
ヤバい病院は「待合室」を見ればモロバレ
看護師の妻と暮らす夫は最強の「勝ち組」
「還暦過ぎても見た目は40代」南雲医師の食生活
40年間も苦しんだ「うつ」が完全に消えた理由