本当はダメなAIをどんどん作ればいい
【田原】そこが日本の間違いです。日本企業のAI開発がなぜ遅れているのかといえば、日本の経営者が失敗を認めないから。本当はダメなAIをどんどん作ればいいんだ。
【上田】おっしゃるとおりで、そういう思いでダメな飛行機を出しました。
【田原】なかでも印象に残ったのは、特攻機「桜花(おうか)」です。機体そのものより、開発者が戦後、自殺を図ろうと海に飛んで行ったけど、漁船に助けられて生きちゃったという話がおもしろい。実話だそうですが、彼としては死にたかったでしょうね。
【上田】あの戦争に関して言うと、勝ち目はなかった。そのことを現場のみんながどこまでわかっていたのか。
【田原】軍隊は勝ち目なんて関係ないよ。大東亜戦争が始まるとき、昭和天皇が御前会議で、こんな戦争していいのかと聞きました。当時、米国に勝てると本気で考えている人はいなかった。でも、海軍の永野修身が「長期戦になったらガソリンが不足して戦えません。戦機はいましかない」と答えて戦争が始まった。軍隊は、勝ち目があろうがなかろうが、戦えれば戦ってしまう。そういう本質を知っているから、日本の歴代総理は「自衛隊が戦えないからいいんだ」と言ってきたわけです。
【上田】素晴らしい。僕も賛同します。
【田原】ただ、冷戦が終わって問題が起きました。ソ連という敵がなくなって、リベラルから「もう対米従属をしなくていい」という声が出てきた。一方、保守は「それはリアリティがない。米国に捨てられたら日本はやっていけない」という。それで安倍総理は集団的自衛権の解釈を変えたんです。
【上田】集団的自衛権は欺瞞に満ちていますよ。そもそも集団的自衛権って語義矛盾です。実は新作の『キュー』のタイトルは、憲法9条のキューという意味もある。9条を意識して書いた作品なので、田原さんにもぜひ読んでいただきたいですね。
【田原】憲法9条と自衛隊は明らかに矛盾していて、インチキですよ。だから自民党の初代総裁、鳩山一郎から自主憲法制定を訴えてきた。ただ、池田勇人以降は言わなくなった。宮沢喜一に「インチキじゃないか」と言ったら、「日本人は自分の体に合わせて洋服を作るのは下手だけど、押しつけられた洋服に体を合わせるのはうまい」と言う。つまり、米国に押しつけられた憲法だから、そのことを利用していままで米国の戦争に巻き込まれずに済んだんだと。
【上田】おっしゃるとおりで、その矛盾を守っていくのが我々の義務です。
【田原】でも、これからは米国が日本を守ってくれないかもしれない。さあ、どうする?