5年に一度の「年金財政検証」は参院選後に先送り
安倍氏の決断はおおむね好評だ。原告や、原告の支援者は歓迎。自民、公明の与党両党も安倍氏の決断を評価している。野党側も安倍氏が原告らに直接謝罪するよう求めるなど注文は忘れないが、決断そのものは歓迎している。
しかし、今回の控訴断念の決断は、美しい話ばかりではない。国民受けする発信をすることで参院選を有利な戦いにしようという下心が感じられるのだ。
安倍氏は選挙に向けてマイナスとなる発信は先送りし、プラス要因を強調する傾向がある。
今回の参院選に向けては、公的年金制度の健全性をチェックするために5年に一度公表する財政検証の公表が参院選後に先送りされる見通しとなった。公表されることにより年金制度の将来への不安が高まり参院選で不利になるのを避けようとしたとの憶測が広がる。
「光」を強調し、「陰」は先送りするのが安倍流
日米の貿易交渉も結論は参院選後に先送りになっているが、こちらも日本にとって不利な合意が予測される中、参院選での批判材料を取り除こうという狙いがちらつく。
一方で6月28、29日に大阪で行われた二十カ国・地域(G20)大阪サミットを最大限政治利用し「外交の安倍」をアピールした。参院選公約の冒頭は安倍氏が各国首脳との会談の写真をちりばめる構成になっているのも、安倍外交を前面に出して選挙を戦おうという狙いがあるからだ。
選挙の前では「光」は最大限利用し「陰」は先送りする。これが安倍流。そしてハンセン病家族訴訟の控訴断念は、典型的な「光」としてフレームアップされた形だ。
参院選の情勢は流動的だ。自民、公明の与党両党で過半数を維持するのは確実だが、それは野党側も織り込み済みの話。焦点は、与党に日本維新の会などを交えた改憲勢力が3分の2を維持するかどうか。こちらは東北などの1人区で自民党候補が伸び悩んでおり予断を許さない。安倍氏の控訴断念表明は、3分の2を確保して憲法改正への道を切り開くためのカンフル剤との見方もできる。