「日本人に罪悪感を与える計画」があると主張

3)いわく「WGIP」に対する批判的総括

ネット右翼が金科玉条のように言いふらすのが、戦後、連合軍(米軍)が日本を占領した際に、「大東亜戦争は日本の罪であり日本が悪いことをした」という事実を人民の末端まで刷り込ませることを目的とされて実行したという「WGIP(ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム)」の存在である。これにより、戦後の日本人は戦前の翼賛的で軍国主義に染まった日本が悪いと洗脳され、それがこんにちに至るまで、日本がアジア各国(中・韓・朝)に謝罪し続ける根源となっていると説く。

実際に『日本国紀』にも、「(WGIPは)戦争についての罪悪感を、日本人の心に植え付けるための宣伝計画」(P.421)と明記してある。

しかしWGIPなる「計画」が実在した資料的事実は存在していない。しかし確かに戦後、日本を占領したGHQは、「忠臣蔵」「チャンバラ劇」などの民間の娯楽を禁止した。なぜなら「仇討」や「闘争」という概念が、日本の大都市を焼け野原にし、2発の原子爆弾で無辜の一般日本人民を殺戮したアメリカ軍に対する報復や憎悪心を惹起させるのではないか、というGHQの懸念があったためである。

ネット右翼の陰謀論をトレースする『日本国紀』

仮にこの「WGIP」という、日本人に罪悪感を与える計画というのが存在していたとしても、それはまったく成功していない。なぜなら1952年、サ条約(サンフランシスコ講和会議)において日本の独立が回復されると、即座に日本の大衆芸能業界は「忠臣蔵」や「チャンバラ劇」、そして「広島・長崎原爆の実相の公開」に踏み切ったからである。

日本人が約7年間におけるGHQの占領期間で「WGIP」により罪悪感を植え付けられていたなら、到底こういった動きは出てこない。ネット右翼も『日本国紀』の記述の中にも、「WGIP」というネット右翼が用いる古典的概念を前提として記述がなされているために、日本が主権を回復した以降の民間文化の動きに関してはまったくの盲目である。

にもかかわらず、ネット右翼は「WGIP」という陰謀論を平気で流布し、『日本国紀』の記述はそれをことごとくトレースしている。そしてお決まりの、戦後混乱期における朝鮮半島出身者の乱暴狼藉(実際には、この中には多数の日本人が関与していた。が、その事実は無視されている)に言及しているのは、『日本国紀』でも全く同じである。