社長自ら配送、晩酌はしない

同じように両社を紹介したが、小倉氏の会社と鳥波氏の会社では企業規模が異なる。グループ全体で年商が約20億円の茨城流通サービスに比べて、鳥波運送は1桁少ない。祖父が事業を興し、大学3年から父(現在は故人)の仕事を手伝い始めた鳥波氏は、妻が事務全般を担当し、実弟が専務を務める“家族経営”だ。時には「運転手」の役割も担う。

鳥波運送の取引先である食品業の担当者は「社長が自ら配送してくれることも多く、腰の低い気配りのある人」と話す。事務所での作業が多い鳥波氏だが、緊急時にはこんな1日を送る日もある。

深夜1:00 5時に出社予定のドライバーより「発熱欠勤願い」の連絡。代行運転を専務に頼み、自分は専務が行く予定だった都内行き便の準備に取り掛かる。
4:00 出社。早朝点呼後、都内に向けて出発。
9:00 都内の取引先に納品。
13:00 会社に戻る。ほぼ同時に、約束した来客に対応。
14:00 社長室で今日初めての食事。終了後、事務員(妻)に断り、1時間程度の仮眠。
16:00 翌日の荷物を積むため、取引先の工場に向かう。18時で終了。
18:30 帰社。時間差で戻ってくるドライバーと対面点呼。気づいた出来事などを伝える。
19:00 社長以外は退社。業界団体の活動準備に充てたり、時には自由時間もできる。
22:00 事務所を閉め退社。
23:00 帰宅。軽く食事をとるが、晩酌はしない。

晩酌をしないのは、早朝に「代行運転」となる事態に備え、酒気帯び運転にならないためだ。

悩みは視力が落ちた高齢ドライバーの処遇

関係者の“奉仕の精神”にも支えられる運送業界だが、残された課題は多い。

「この業界は1990年12月に実施された『物流2法』により規制緩和が進み、参入業者が増加。約4万社が6万社以上になりました。でも当時と現在で、車両の総保有台数はほとんど変わらない。新規参入しやすくなり、玉石混交な一面もあります」

小倉氏はそう指摘する。「物流2法」とは、貨物自動車運送事業法と貨物運送取扱事業法で、前者の法改正によりトラック事業が「免許制」から「許可制」に変わった。それに伴い、過当競争も起きた。今では各社が当たり前のように行っている配送無料サービスだが、「販売元と配送業者のどちらが物流コストを負担するか」の問題も依然として残る。

「なかなか理想通りにはいきませんが、『配送品質』『交通安全』『雇用確保』やそれに伴う労務問題などを、どこまで高い次元でバランスを取るかだと思います」(鳥波氏)

茨城県トラック協会が毎年開催している交通安全教室の様子。地元の小学生を対象に、トラックの死角などを教えている(写真=鳥波社長提供)

配送品質について小倉氏は「自社の立場では、ドライバー教育に尽きる」と話す。

「当社のドライバーの平均年齢は42~43歳。業界平均の47~48歳よりは若いですが、年に6回、教育研修を実施して、安全運転や荷物管理を徹底しています。個人差がありますが、第一線で活動できるのは65歳ぐらいまで。多くの人は動体視力が落ちるのです。状況に応じて、例えば運転業務から倉庫内業務に配置転換することもあります」(小倉氏)