“インスタ映え”対応を徹底する神社もある
ここでは、御朱印ブームを少し広くとらえて、御朱印を頒布する寺社側と購入する側の二つの面から考えてみたい。単に不謹慎と批判するだけでは済まされない事情がある。
近年、各地の寺社が御朱印や授与品も含めた自己表現に力を入れてきた。たとえば、ネットの転売サイトでは、有名な伝統寺社に交じって、熱海の來宮(きのみや)神社の御朱印が出品されている。古くからある神社だが、多くの人が訪れるようになったのは2000年代のパワースポット・ブーム以降だ。スピリチュアリストなどに紹介されることで知名度を獲得した。
來宮神社境内の各所には、インスタグラムで発信しやすいよう、写真撮影用の台が設置されている。天然記念物の大きなクスノキの周囲には歩きやすいように歩道が作られ、周囲は、木火土金水の五行の思想を大楠・明かり・砂利・鉄筋・湧き水で表現した「大楠五色の杜」として整備されている。
境内にはカフェもあり、季節ものの桜ラテからミネストローネ、オリジナルスイーツまで楽しめる。御守りなどの頒布所はホテルのロビーのようだ。社殿前の玉砂利には落ち葉でハートマークが作られ、それを入れて写真を撮りやすいようにやはり台が置かれている。
生き残り戦略として情報発信は正しい
こうした状況を宗教の商品化として批判する声もあるが、それほど単純な話ではない。一部の超有名どころをのぞけば、一般的な寺社が地域外から人を集めることは難しい。
ビジネスに引きつけて言えば、寺院は檀家、神社は氏子という形で、家単位・地域単位の固定客を抱えており、その“取り引き”を中心に成り立ってきた。新宗教などが布教で新たな顧客を獲得してきたのに対し、伝統宗教である仏教・神道は新規顧客の獲得には熱心ではなく、その必要もなかった。だが、少子化・高齢化・都市化などで固定客は減少しつつある。家や地域コミュニティの解体と細分化が進み、固定客が増える見込みはない。
そうした状況下、各寺社がそれぞれ工夫を凝らして独自性を表現し、積極的に情報発信することで、新たな個人客の獲得を目指すのは必然だろう。時代の変化に合わせたビジネスモデルの転換であり、必要な生存戦略だ。
何もしなければ、建物も僧侶神職の生活も維持できなくなる。所有する敷地でマンションや駐車場を経営するよりも、その寺社の歴史や祭神と結び付けながら授与品や御朱印、境内のデザインに工夫を凝らすほうが本来的な取り組みだろう。