「室内が寒いこと」は健康に悪影響がある
国は省エネ・省CO2を推し進めているが、その中でも優先されているのはLED照明や高効率給湯機など、コストパフォーマンスが高い施策だ。建物そのものの性能向上に大きなメリットがあるのは間違いないが、省エネという意味では優先順位が高くないのが現実である。こうした中で、従来の省エネの視点ではなく、健康の視点から見直す動きが出てきている。
最近になって冬の室内温熱環境に関する調査研究が急速に進み、室内が寒いということは単に不快というだけでなく、住民の健康にはっきりとした影響があることが明らかになってきている。国土交通省などが進めている「スマートウェルネス住宅等推進事業」では、寒い家と暖かい家それぞれに住む住民の健康調査の報告として、以下の影響を述べている。
2. 居住者の血圧は、部屋間の温度差が大きく床近傍の室温が低い住宅で、有意に高い。
3. 断熱改修後に、居住者の起床時の最高血圧が有意に低下。
4. 室温が低い家では、コレステロール値が基準範囲を超える人、心電図の異常所見がある人が有意に多い。
5. 就寝前の室温が低い住宅ほど、過活動膀胱症状を有する人が有意に多い。断熱改修後に就寝前居間室温が上昇した住宅では、過活動膀胱症状が有意に緩和。
6. 床近傍の室温が低い住宅では、様々な疾病・症状を有する人が有意に多い。
7. 断熱改修に伴う室温上昇によって暖房習慣が変化した住宅では、住宅内身体活動時間が有意に増加
出典:断熱改修等による居住者の健康への影響調査 中間報告(第3回)
快適な室内環境の確保は「義務」
寒い家は健康に悪影響があり、暖かい家は健康や活動に好影響があることが、大規模な調査からハッキリ示されたことには大きな意義がある。
筆者自身は、家の質においては、日々の生活が楽しいことが肝心だと考えるので、快適性を中心に議論をしたいところであるが、日本では「快適な環境はゼイタクである」という固定観念が、高齢者を中心に依然根強い。国民の健康増進や医療費低減の意味合いからも、「快適な室内環境の確保は義務」という発想の転換が求められている。
先の「性能確保はコスパが悪い」という話も、住民が燃料費を許容できる範囲に暖房を我慢している、と解釈することもできる。住民が望むままに暖房を使えば、とても現状のような燃料費では済まない。燃料費の現状だけで議論していてはダメなのであり、本来望ましい居住環境をリーズナブルな燃料費で実現するのに必要な、建物の性能をまず議論すべきなのではないだろうか。