K 創業者のリーダーシップについて話してきたが、不正会計疑惑が頻発する時代における企業リーダーシップやそれに対する世間の信頼についてどう思うか。企業社会全体がまさに死の谷にいるように見えるが。

C なぜあのようにひどい不正会計疑惑が続発したのかについては持論がある。私は経済学者に責任があると考えている。彼らは「プリンシパル・エージェント理論(委託者・受託者理論)」を明確にしたからだ。この理論によれば、企業のマネジャーとしての受託者は、株式を保有する委託者が望むことを執行するとは限らない。この2者の関心はまったく異なるからだ。マネジャーの報酬に対するストックオプションの比重を重くすることが必要とされた。そうすれば、マネジャーの利益が株主利益に連動すると経済学者たちは考えた。

G ストックオプションは、代理人の問題を解決し、マネジメントの利益とオーナーや経営トップの利益を一致させる手段である、という暗黙の仮説がある。大手上場企業の株をすでに20%所有する者が自らに2000万株のストックオプションを与えた場合、このプリンシパル・エージェント理論に真っ向から対立してしまう。

私がすでに20%の株式を所有している場合、オーナーのように振る舞いはしないが、あと2000万株もらえれば、オーナーシップを発揮するとでもいうのか。

実際にすべての社員、専門職や管理職がストックオプションや株式を保有する企業では、彼らのモチベーションがわずかに増加しただけで、企業利益を押し上げ、組織全体としてさらに業績が上がる。とすると、ストックオプションの利用に目を向けた場合、全体の50%のオプションを幹部5人だけに与える企業と、90%、95%のオプションを幹部5人以外に与える企業では、異なる効果が出てくる。したがって、ストックオプションが悪いというのではなく、それを誰に、どれくらい与えるかが、ストックオプションの成果を決めるのだ。

K 2000万株をCEOに、というのは実際は取締役会が許さないのでは。あなたは取締役会の変革にも長年取り組んでいる。

G そうだ。少しずつだが、プレッシャーを受けつつ、取締役会は正しい方向に進んでいる。しかし取締役会は、実質上CEOの諮問機関であるという地点からスタートしている。CEOによって選ばれ、CEOのために働き、CEOの活動を無条件に承認するような仕事をし、事態がうまくいっているときには、ちょっとしたアドバイスをするといったように。事実上はコンサルタント集団やアドバイザーとなんら違いない役割を果たしている。コーポレート・ガバナンスはこれとは正反対であり、そうあるべきだ。CEOが取締役会により選ばれ、維持され、契約更新され、監督されるものなのだ。

だから、コーポレート・ガバナンスとは何ぞやという公式見解があれば、実際の運営もあるわけだ。そして、この2つはまさに正反対のものだ。このような諮問機関モデルから正しいガバナンスモデルへ移行する動きがあるが、長い道のりだろう。その長さを示している数字が、フォーチュン500社のうち、会長がCEOと異なる企業の割合だ。85%が、会長がCEOを兼務しているのが現状だ。

会長がCEOを兼任する場合、取締役会は、一体どうやってCEOを監督できるだろう。

(翻訳=ディプロマット)