なぜ50代営業マンはカッターで若い女性の臀部を切りつけたか
たとえばこんな事件。傍聴したのは5年ほど前で、被告人は50代の営業マン(裁判時は無職)。容疑はカッターナイフで服の上から若い女性の臀部を切りつけたというもの。賠償金15万円を払ったものの、女性の憤りは収まらず被害届を出されて御用となった。
余罪もたくさんあり、ストレス解消のために約50人の着衣をカッターナイフで切りつけてきたという。思いつきの犯行ではなく、常習者といっていいレベルだろう。被告によれば、いつもは服(ダウンジャケットの裾の部分など)だけを狙うのだが、このときはパンツ(ズボン)のみ切るつもりだった。ただ、いきおい余ってか、お尻の肉まで切りつけてしまった。ヒリヒリすると感じた被害者が手で触ると血がついていたため発覚したのだった。性犯罪ではないけれど、被害者が女性ばかりであるところからもそれに近い匂いを感じた。
しかし、被告人はあくまでも、ストレスが原因だと言い張る。切りつけを始めたきっかけを、このように説明するのだ。
「仕事はイベントや催事での販売でしたが、デパートでの催事を任され、商品の選定や現場での忙しさが半端でない上に売上のプレッシャーが重なっていきました。自分で何でもしなくちゃいけないので、その点がきつかったです。ストレス解消? そうですね。ドキドキ感がありますんで、それを味わいたくて繰り返してしまいました」
被害者が、悔しがったり怖がったりするのを想像して楽しむ
発覚しないためのテクニックも使っている。薄着になり、切ってすぐ発覚する可能性が高い夏場は避け、厚着になる冬場に集中的に活動するのだ。尻を狙ったのは、被告人いわく「人を傷つけちゃいけない」からだそうだが、後ろから追い抜きざまに狙えて周囲から目立ちにくい場所ということだろう。
「傷つけたのは初めてです。ずるいようですが、見つからないように切るのが目的で、うまくいくと楽しかった。今回は、自動改札機を抜けたところで切りましたが、(被害者が)急に止まったのでぶつかるような形になり、深く切ってしまった」
あとから気づいた被害者が、悔しがったり怖がったりするのを想像して楽しむ。それがストレスのキツイ職場で働く被告人の慰めになっていたのだ。澱んだ欲望が垣間見える、暗い犯罪である。本人もそこは承知しているらしく、卑劣な犯行であると認め、違う趣味を見つけるべきだったと反省した。
「50歳をすぎて、こんなばかげたことばかり繰り返し、申し訳ないと思っています。一人で悩むより、ちゃんと精神科へ行こうと思っています」