「伝説の取材記者」はいわれなき批判に怒った
安田氏の会見が終わった直後に、日本テレビの清水潔氏と会った。彼は、『FOCUS』のカメラマンだった時、ストーカーに殺された女子大生の遺言から、単身で犯人を捜し出し、追い詰めた。
生前、女子大生が困って埼玉県警に相談し、告訴していたのに、警察ぐるみでその事実を隠蔽していたことも暴き、この報道の後に「ストーカー法」ができた。
日本テレビに移ってから、冤罪を訴えていた菅家利和さんの「足利事件」の捜査に疑問を持ち、丹念な取材で「新犯人は別にいる」「もう一度DNA鑑定をやり直せ」とNNNドキュメントや自社のニュースで訴えた。
それによって、日本初となる「再鑑定」が行われ、菅家さんは晴れて無罪になった。彼は「伝説の取材記者」といわれている。清水氏は、安田氏にいわれなき批判が起きていることについて、概略こう話してくれた。
「国民がなんなく手に入れている日々の情報には、安田さんたちのようなジャーナリストが、危険を顧みず、命を懸けてとってきたものがたくさんある。しかし、享受している人たちは、見ている情報が届くまでに、どれだけのジャーナリストたちの汗や涙、時には血が混じっているかに思いを致さない」
「安田さんに対して、自己責任などとバッシングする人たちは、考え違いをしている。紛争地帯や危険な地域に潜入して、何とか情報を手に入れ、真実を伝えようと考えているジャーナリストたちはみな、たとえ自分の身に何かあっても、それは自己責任だと覚悟している」
シリア人の夫をもつ小松由香さんが訴えること
いま一人、考えを聞きたくてメールをした女性がいる。小松由香さん。彼女は植村直己冒険賞を受賞した登山家でありフォトグラファーでもある。2012年からシリア内戦を取材し、シリア難民の今を伝える活動を行っている。
ちなみに彼女の夫君はシリア人で、東京で暮らしている。小松さんは、先日、身重の上に小さな子供を連れてトルコに行き、難民の取材をしてきた。以下は彼女のメールからの引用である。
▼小松由香さんからのメール
また内戦前後のシリアを見てきて思うことは、情報は常にコントロールされるということだ。そして日本のように客観的な情報を当たり前のように得られる環境がいかに恵まれているかということ。情報はただではない。それがお茶の間に届けられるまで、綿密な下調べをし、ときにリスクを冒して現地に入る人がいるからこそ得られるものだ。
確かにシリアへの渡航は日本政府によって禁止され、事前に大きなリスクも予想はされた。結果的に安田さんの解放のために多くの人員や資金が動いたことを考えると、全く問題がなかったわけではないだろう。しかし危険性も承知の上で、安田さんは相当の覚悟をして現地に向かったのだ。