しかし彼は「戦い」の企画を推し進めた。最初の「ふたりはプリキュア」の企画書のコンセプト欄に「女の子だって暴れたい」と書いたそうだ。その根底には幼児には、男女差がほとんどないとの考えがあったからだ。公園でも、幼稚園でも一緒になって遊ぶ。幼児世代は男女の違いなく飛んだり跳ねたりして遊びたいだろうというのが、彼の考えだった。
だが単なる直感だけでこのシリーズが成功を収めたわけではない。いわゆるマーケティング・リサーチはきちんと実施しているのだ。事前に女の子の好きな職業であるとか、好きなカラーであるとか、アニメ作品やおもちゃに関して、これまでどのようなものが女の子に好まれてきたのかを調べた。
とりわけ美少女戦士物の模範例といえるセーラームーンについては詳細な検討を加えたという。なぜあれが女の子にあそこまで受け入れられたのかを理解するために、ヒアリングを行い、実際にストーリー構成も研究した。
とはいえ「(セーラームーンと)同じことをやったからといって、今の時代に受け入れられるわけではない」と、新たな発想のための原点に位置づけたのだった。
暴力、水着はNG。女児目線を徹底する「小さなこだわり」
プリキュア・シリーズには、鷲尾氏とタッグを組んだ西尾大介監督による独特のこだわり――これは基本ルールと言い換えてもいいが――がある。
例えば顔面への攻撃はしない。水着や下着は見せないなどだ。アニメのターゲットである女児がプリキュアごっこをしたとき、無意識のうちに絵に刷り込まれていることをやってしまったら怪我をする可能性がある。そこで、顔面や腹部を殴ったり殴られたりというシーンは表立って出さないようにした。それらはすべてガードされているのだ。ただし、ガードしたうえでふっ飛ばされ、壁にぶつかってそれが壊れるというのは、女児が真似しようと思ってもできるものではない。そういう真似のできないところで威力、ダメージ等を想像させることを意識したのだ。