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強烈な性格の人に、よくある行動

建前や譲歩が大切なのは、弁護士の交渉でも同じだ。ただ単に依頼者の希望を述べるだけでは、交渉はまとまらない。狡猾な弁護士は、相手に譲歩する姿勢を見せつつ、自分の要望を確実に飲ませていく。交渉で大事なことは、相手の顔をつぶさないということだ。

こういった大人のコミュニケーションが取れない人がいると、周囲にとってはストレスになる。勇気を持って、「それはちょっとおかしいのでは」と水を向けると、いきなり敵視されるようになる。強烈な性格の人であれば、職場を「自分の味方」と「自分の敵」に分断させ、「あなたはどちらにつく」と強要する場合すらある。

ナンバーワンとナンバーツーの衝突

ここで一つの事例を紹介しよう(業種や規模は適宜変更しているが、基本的な内容は実際にあったケース)。

とあるクリニックでは、ナンバーツーの看護師が強烈な性格でトップになれないことにいつも不満を抱いていた。自分の指示に従うスタッフには優しいのだが、トップと懇意な者に対しては明らかに厳しすぎる態度をとっていた。トップ派とナンバーツー派に職場が分断されてしまっていた。面倒ごとに巻き込まれないように距離を置いていたスタッフにすら、「あなたはどちらにつくの」と否応なしに意見を求めていたようだ。

この対立は、ナンバーツーがいきなり他のスタッフ数名を引き連れて、退職の申出をしてきたことで急展開した。理由としては、「看護師長のもとではやっていけない。彼女を退職させない限り、退職して、パワハラで訴える」というものだった。院長としては、ただでさえ人手不足のなかで、一斉に退職されると事業自体に影響する。しかも訴えられると、社会的立場にも傷がつく。そこで「コトをうまくおさえて、退職を引き留めてほしい」ということで、人づてに相談に来られた。

引き留めて、いい結果になったことがない

これに対して私は「申し訳ないですが、うまくやる方法を知りません」とだけ回答した。それが会社側として、あまたの失敗を踏み越えてきた代理人としての本音である。ここで院長が目先の事業のために、ナンバーツーに「それは悪かったね。なんかするよ」と安易に答えれば、他のスタッフからの信頼は地に落ちるだろう。「この人はトップの器ではない」と表明するようなものだ。個人的な見解だが、本人から退職の申出があればよほど理由がない限り、引き留めるべきではない。

これまでの経験からして、引き留めていい結果になった事案を知らない。かえって周囲も気を遣うようになり、職場全体が沈んでしまう。この事案でも、院長に理解していただき、耐えてもらった。予想が外れたのは、ナンバーツーのほう。院長は引き留めるはずと読んでいたので肩透かしにあって慌てた。そこで全員から根拠のないパワハラの主張がなされた。

冷静な話し合いが期待できなかったため、こちらから全員を相手に調停を求める申立てを簡易裁判所に出した。すると、追随した大半のスタッフから「ナンバーツーに言われたから仕方なく従った。事情がよくわからない」という連絡があった。そういった方については、調停を取り下げて終わらせた。残った方についても、調停のなかでこちらが何も負担しないことで話をまとめた。